日本人が「社会保障負担は重い」と感じる根本的原因は……
海外では一般的な、GDP比で見た租税や社会保障負担の指標で比べると日本は18.6%で、欧州にはドイツ(22.9%)、フランス(23.9%)という日本よりも負担の重い国はいくらでもある。
もちろん、アメリカ(25.0%)のように負担の軽い国もあるが、このような国は往々にして、入院するだけで莫大な費用がかかるので、裕福ではない国民は医療を受けられずに、風邪をひいてもビタミン剤でやり過ごすような「低負担・低保障」の国だ。
日本のように、ちょっと熱が出たり、喉が痛いと病院に行ったり、元気な高齢者が病院に毎日通ってすさまじい数の薬を処方されているような「過保護」なまでの医療サービスを提供している国では、どうしても今くらいの社会保障負担になってしまうのだ。
では、世界的に見るとそこまで負担は重くないのに、なぜわれわれは「日本の社会保障負担は重い」と感じているのかというと、「給料が安い」ということに尽きる。
日本以外の先進国はこの30年、ちゃんと給料が上がってきた。「中小企業が潰れるから国が守れ」といったおかしな呼びかけは無視されて、国や自治体が継続的に、最低賃金の引き上げを行ってきた。だから、社会保障負担が日本よりも重くても国民は受け入れられるのだ。
つまり、この問題の本質は社会保険料の負担が重いことではなく、「賃金が低い」ことにあるのだ。ここから目を背けて、社会保障費を削ることや、借金を増やすことは事態を悪化させる「悪手」であり、子どもたちの世代にとんでもない不利益をもたらす事態になる。
社会保険料が高いと嘆く前に、まずはどうすれば賃金が上がっていくのかという国民的議論を深めていくべきだ。
窪田順生プロフィール
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
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