世界を知れば日本が見える 第11回

サッカー日本代表の活躍で沸くカタールW杯、世界ではなぜ批判されている?

日本代表の決勝トーナメント進出で国内でも盛り上がっているサッカー「FIFA ワールドカップ カタール 2022」大会。だがその裏で、目を背けてはいけない数々の疑惑がある。それは……。

北朝鮮からの労働者たちも

さらにこんな指摘もある。アフリカやアジアから出稼ぎに来る人たちの中には、北朝鮮からの労働者たちもいたというのだ。決勝戦が行われるドーハ近郊のルサイルスタジアムでは、2021年ごろまで北朝鮮の労働者が最大で2800人も働いていたと指摘され、カタール政府も北朝鮮人労働者が出稼ぎに来ていたことを認めている。
 

米外交専門誌フォーリン・アフェアーズの報道によれば、こうした労働者の稼ぎの9割は北朝鮮政府に徴収され、そうした外貨が核やミサイル開発の資金になっているという。

外貨が北朝鮮の核やミサイル開発の資金に?(画像はイメージ)

つまり、今回のW杯決勝戦のスタジアムの建設作業の一部が、北朝鮮の核・ミサイル開発につながっている可能性があるということになる。
 

ここまで見てきた通り、W杯のような世界的な大会となると、さまざまな国際問題が顕在化することになる。それは政治問題にもなっていくのである。
 

前出のブラッター元会長は、イラン国内で起きている反政府デモなどを受けて、インタビューでイランを出場させるべきではないとも発言してニュースになっている。FIFAの元トップすら、堂々と政治的な発言をスポーツに持ち込んでいる。現実は、スポーツは政治や外交と切っても切り離せない。
 

とにかく、今回のカタールのサッカーW杯では、さまざまな疑惑や批判が渦巻いている。そうした犠牲の上に、世界で50億人が注目する4年に1度の華々しい大会が開催されているという事実は忘れないほうがいいだろう。
 


山田 敏弘プロフィール
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、アメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。

国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル


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