ヒナタカの雑食系映画論 第49回

ラストに賛否両論? 『ゴジラ-1.0』で議論を呼んだ“6つのポイント”を徹底考察【ネタバレあり】

絶賛に次ぐ絶賛が寄せられている公開中の映画『ゴジラ-1.0(ゴジラ マイナスワン)』、議論を呼んだ6つのポイントについて、ネタバレ全開で解説・考察をしてみましょう。(サムネイル画像出典:『ゴジラ-1.0』公式X)

5:「自己犠牲」を否定するメッセージ

元特攻隊員である敷島はPTSD(心的外傷後ストレス障害)とサバイバーズ・ギルト(自分だけ生き残ってしまったという罪悪感)を抱えており、精神は崩壊寸前。それでも典子にも諭され、生きようとしていましたが……ゴジラは銀座で破壊の限りを尽くしました。
 
ゴジラを憎悪し、まるで命を捨て特攻していくかのように見えた敷島でしたが……かつてはゴジラを撃てなかったことを責め立てたこともあった整備士の橘宗作(青木崇高)は、戦闘機・震電に搭載した自推式脱出装置の存在を教え、「生きろ」と敷島に告げました。 
 
それまでは、「誰かが貧乏くじを引かなければいけない」ことを示しながらも、作戦から離脱する者がいたとしても、絶対に死ぬわけではなくても、元海軍士官の民間人たちが命の危険がある作戦に乗って「いい顔をしている」「今度は役に立てるかもしれない」などと語られることに、やや違和感を覚えたことも事実でした。

戦時中の「貧乏くじ」を批判する言葉を告げるのであれば、その貧乏くじを引かせてしまうシステムの方、例えば政府の方針のほうを変えなければいけないのではないか、とも個人的には思ってしまったのです。

それでも、最終的なメッセージである「どうしても戦わなければいけないとしても、自己犠牲をする必要はない、生きるべきだ」は、明確に反戦の意を込めた、シンプルながらとても誠実なものだったと思いますし、後述するコロナ禍の世相を示しているとも取れます。

山崎貴監督は『永遠の0』でも特攻隊員の姿を描き、また『アルキメデスの大戦』でも戦争に関わる者の“矛盾”を容赦なく描いたこともありましたが、その先にはっきりと自己犠牲を否定した……そういう意味でも、『ゴジラ-1.0』は山崎貴監督の集大成であるとともに、1つの到達点だとも思うのです。

余談ですが、序盤で敷島がゴジラを撃てなかった理由は、ノベライズ版で明確に語られています。映画だけ見てモヤっとした人は、ほかにも映画では省かれた心理描写の数々を確認する目的でも、ぜひ読んでみてほしいです。

6:戦争、東日本大震災、そしてコロナ禍の時代を映してきたゴジラ映画

東京にゴジラが上陸する可能性があるにもかかわらず、政府が情報を国民に伏せていることに対し、野田健治(吉岡秀隆)は「予想される大混乱の責任を誰も取りたくないんでしょうね」と、秋津は「情報統制はこの国のお家芸だ」と批判をしました。
 
その結果として、かなりの復興をしていたはずの銀座の街がゴジラに蹂躙されただけなく、疎開をすれば生存できたであろう多くの人の命が失われることになりました。

さらに政府も(他国も)頼れず、民間人が(ゴジラを倒すために)「自分たちで選択し行動しなければならない」状況に追いやられる様は、現実のコロナ禍にも重なっています。事実、『ゴジラ-1.0』の劇場パンフレットでは、コロナ禍のために制作が一時中断となったほか、脚本(物語)にも少なからず影響があったことも語られていたりもするのです。

1954年の『ゴジラ』第1作は実際に終戦からわずか9年後に作られ、戦争の生々しい記憶と傷跡を見る人に突きつけていました。さらに、2016年の『シン・ゴジラ』も東日本大震災の被害を連想させましたし、それから7年後の『ゴジラ-1.0』がコロナ禍を思わせると、ゴジラ映画は「時代を映してきた」といえます

『ゴジラ-1.0』の劇中で、太平洋戦争終結後からわずか2年後にゴジラに襲われ、ゼロからの復興を目指していたはずなのに、さらにマイナスになったという絶望は、それこそ東日本大震災から復興をしていたのに(それよりも長い約10年のスパンはあるものの)コロナ禍に突入した日本という国そのもののメタファーにも思えるほどです。

現実では深刻なコロナ禍は1つの終わりを迎えたとも言えますが、新型コロナウイルスがなくなったわけではないですし、今もコロナの後遺症で苦しんでいる人もいます。その今、前述した典子の首筋に這い上がった黒い小さなアザ(が示す後遺症)や、またもゴジラが復活するかもしれない(また大きな災害が起こるかもしれない)という不安は、現実においてもまったく他人事ではありません。

今一度そのことを認識するという点でも、この『ゴジラ-1.0』は意義のある作品だったと思います。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「日刊サイゾー」「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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