ヒナタカの雑食系映画論 第49回

ラストに賛否両論? 『ゴジラ-1.0』で議論を呼んだ“6つのポイント”を徹底考察【ネタバレあり】

絶賛に次ぐ絶賛が寄せられている公開中の映画『ゴジラ-1.0(ゴジラ マイナスワン)』、議論を呼んだ6つのポイントについて、ネタバレ全開で解説・考察をしてみましょう。(サムネイル画像出典:『ゴジラ-1.0』公式X)

※以下、『ゴジラ-1.0』の結末を含むネタバレに触れています。鑑賞後にお読みください。また、ノベライズ版の内容も一部含みます。

1:典子はなぜ生きていた? 最後に首筋に出てきたアザの正体は?

早速、「最大の物議」を醸しているポイントに触れましょう。最後に病院で包帯でぐるぐる巻きになっていた、浜辺美波演じる大石典子の首筋には黒い小さなアザのようなものが這い上がっていました。そして、映画は深海に沈んでいったゴジラの体の一部が映され、確実に再生を始めたところで幕を閉じます。 
 
多くの人が有力な説としてあげているのは、あの黒い小さなアザは「G細胞」の侵食だということです。

G細胞とは、その名の通りゴジラの細胞で、シリーズでは「強力な自己再生能力を有している」ことがよく語られています。1989年の『ゴジラvsビオランテ』では怪獣ビオランテがG細胞の影響により誕生しますし、1994年の『ゴジラvsスペースゴジラ』や1999年の『ゴジラ2000 ミレニアム』でもG細胞により危険な怪獣が生まれる流れが踏襲されていました。

今回の『ゴジラ-1.0』でのゴジラは、口の中で機雷を爆発させて顔面を吹き飛ばしても、すぐに元通りになるほどの、驚異的な再生能力を持っています。

また、ゴジラが銀座の街を破壊した後には、「巨大生物の(熱線放射をしたダメージの影響で)肉片が散乱し、放射能の危険があるため、回収が遅れている」という報道がなされていました。

典子は銀座でのゴジラの熱線による爆風のために死んだと思われており、そして「なぜ生きていたのか」の理由は明かされないままでした。

ともすれば、典子は爆風を受け死にかけていたものの、どこかで(電車から川に落ちた時に?)ゴジラから剥がれ落ちた肉片と接触しG細胞が侵食して、その自己再生能力により生き延びることができた(生き返った)のではないか、黒い小さなアザはそのことを示しているのではないか、とも思えるのです。

2:アザは原子爆弾の後遺症のメタファーかもしれない

もう1つ、典子の黒い小さなアザが示していると思えるのは、原子爆弾の後遺症です。例えば、銀座の街から人々が見た、ゴジラの熱戦による爆発の光景は、それこそ原爆が投下された光景と重なります。

広島と長崎に実際に落とされた原爆の被爆者は、肉体に受けた傷だけでなく、放射線による症状で苦しみ続けました。あのアザは、ただ典子を生存させたというポジティブなものではなく、後遺症として今後の典子を苦しめるのかもしれませんし、はたまた典子が危険な怪獣へと姿を変えてしまう可能性も否定はできません。

また、1954年の『ゴジラ』第1作ではゴジラは核実験により安住の地を追われていますし、ほかの作品でもゴジラは「核実験の被害を受けた生物」のように語られ、この『ゴジラ-1.0』ではクロスロード作戦という核実験によりゴジラがそのエネルギーを受けて巨大化しています。ゴジラ自体が、核(原爆か水爆)そのもの、または被害者、もしくは被害そのもののメタファーともいえるのです。

典子は「あなたの戦争は終わりましたか」と、神木隆之介演じる主人公・敷島浩一に問いかけていましたが……軍人としての敷島の戦いは終わったとしても、これから典子には「闘病」という戦いが待っている、(これからは夫婦になるかもしれない)2人の新たな戦いが待っているのかもしれません。
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