転職はチャンスとも捉えられる
ただこれは考え方の問題でもあるが、実は、転職はチャンスと捉えることもできる。例えば、筆者が社員として在籍していた海外のニュース通信社の界隈では、やはり出入りが激しかった。ある通信社を辞めて、別の通信社に入り、また同じ通信社に出戻るということが普通に行われており、転職のたびに給料などを好条件にしていくというケースをいくつも見た。
海外(特にアメリカ)から見ると、日本のように同じ会社に数十年と勤めて、「給料が思うように上がらない!」と酒を飲みながら屋台でクダを巻くという文化は独特なものだ。それならばさらに給料がいい新天地に移動しながら、好条件の仕事を見つけていくのが理想的である。ただそのためには、自らのスキルや肩書などを常に意識して、より良い条件の会社に転職する機会をうかがっておく必要がある。
こうした解雇を巡る状況は、生産性にもつながるという見方がある。よく日本は生産性が低いという話になるが、確かに、G7(主要7カ国)で最下位の状態が続いている。
その原因の1つが「日本型雇用」(メンバーシップ型雇用)といわれている。「日本型雇用」とはつまり、1つの会社に長く在籍して、その会社独特のルールで社内の異動を定期的に行い、勤続年数で自動的にゆっくりと給料が上がるシステムのことである。極端に言えば、簡単に解雇されないことが生産性の低さにつながっている可能性がある。
逆に欧米諸国では「ジョブ型雇用」を採用し、必要なスキルを持った人を適材適所で配置していく。G7のランキングから見れば、その方が生産性が高い。その代わり、能力重視になるので社員のスキルや能力の向上が求められるし、人の入れ替わりが活発になる。つまり、解雇も増えることになる。
学歴も関係ない
もう1つ言えば、そこには基本的に学歴も関係なくなる。何ができて、何を達成してきたのかが、雇う側には必要な情報で、どこの学校を卒業したのかは関係ない。日本で時々話題になるような、学歴フィルターといった能力とは関係のない指標はあまり意味をなさない。
生産性の低さが指摘されている日本は、極端なことを言えば、解雇しやすい職場環境になる必要があるのかもしれない。ただそれを日本人が受け入れる準備ができているかどうかは分からない。今よりも間違いなく競争が高まり、実力社会になるからである。
山田 敏弘 プロフィール
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
Twitter: @yamadajour、公式YouTube「SPYチャンネル」
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