ここがヘンだよ、ニッポン企業 第8回

なぜサイゼリヤは「大盛り終了」の理由を「品質の安定が困難」などと苦しい説明をしたのか

サイゼリヤの「大盛り終了」にSNS上では悲しみの声が広がっている。理由は「品質の安定が困難なため」としているが、裏には同社ならではの「オトナの事情」があると筆者は考えている。それは……。

本当の「悲報」は……

「値上げ」とは言えない……!?

原料や物流費が高騰している中で「大盛り」を維持するには、企業努力が尽きたらどうしても「値上げ」をしなくてはいけない。サイゼリヤでは今、150~200円程度だが、例えばそれを200~250円などにするしかない。
 

しかし、それはできない。2カ月前に社長が「値上げしない」と宣言したからだ。そこで大盛りを中止にするわけだが、「原材料価格や物流費高騰」というコスト増とは説明しにくい。大盛りや「おこさま」メニューはファンから非常に支持されている。それが「コスト」の問題で中止になる、と聞いたらファンはどんな反応になるだろうか。
 

「いやいや、大盛りサービスはすごくありがたいから、ちょっとくらい値上げしてでも続けてよ」

「値上げしないって方針にこだわりすぎて、顧客目線をなくしちゃってんじゃないの?」
 

そんな辛辣(しんらつ)な批判が飛んでくる恐れがある。そうなると、サイゼリヤとしては今回の大盛り終了を、少しでも「コスト増」を連想させる説明を避けようとなる。なるべく誰にもツッコミを入れられず、サラッと終了させたい。そこで悩んで悩んでひねり出したのが、「品質の安定が困難なため」という説明を、サービス終了前日にリリースという「作戦」ではなかったか。
 

もちろん、これはあくまで筆者の推測だ。ただ、企業トップが発した衝撃的な宣言に対して、組織全体が振り回され、「忖度(そんたく)」をしなくてはいけない広報や営業などが対外的に、苦しい説明を強いられるのはよくあるパターンだ。
 

いずれにせよ、日本を代表する外食企業が、「コスト増だから値上げさせてもらいますよ、皆さんもおいしいものを食べたいんだからそれくらいいいでしょ?」なんてことすらも言えないというのは、かなり「異常」な社会ではないか。
 

サイゼリヤの大盛りがなくなることを「悲報」と言う人も多いが、実は本当の「悲報」は、我々が骨の髄まで「デフレマインド」に支配されてしまっていることかもしれない。



窪田 順生 プロフィール
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。


【おすすめ記事】
イオン、サイゼリヤ、シャトレーゼも…「値上げしない企業」が“称賛”の一方で抱える、特殊な事情
「スシロー」「くら寿司」が値上げの中、「かっぱ寿司」が「100円皿」を30商品増やしたワケ
海外で低賃金労働者になってしまう日本人、「安いニッポン」の本当の怖さとは
「安いニッポン」に三行半? 国内で消滅寸前の「東京チカラめし」はなぜ海外に軸足を移すのか
「不祥事ドミノ」のスシローは、「異物混入」が続いた時のマクドナルドとよく似ている


 

Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    静岡の名所をぐるり。東海道新幹線と在来線で巡る、「富士山」絶景ビュースポットの旅

  • ヒナタカの雑食系映画論

    祝・岡田将生&高畑充希結婚! ドラマ『1122 いいふうふ』5つの魅力から「この2人なら大丈夫」と思えた理由

  • アラサーが考える恋愛とお金

    「友人はマイホーム。私は家賃8万円の狭い1K」仕事でも“板挟み”、友達の幸せを喜べないアラサーの闇

  • AIに負けない子の育て方

    「お得校」の中身に変化! 入り口偏差値と大学合格実績を比べるのはもう古い【最新中学受験事情】