本当の「悲報」は……
原料や物流費が高騰している中で「大盛り」を維持するには、企業努力が尽きたらどうしても「値上げ」をしなくてはいけない。サイゼリヤでは今、150~200円程度だが、例えばそれを200~250円などにするしかない。
しかし、それはできない。2カ月前に社長が「値上げしない」と宣言したからだ。そこで大盛りを中止にするわけだが、「原材料価格や物流費高騰」というコスト増とは説明しにくい。大盛りや「おこさま」メニューはファンから非常に支持されている。それが「コスト」の問題で中止になる、と聞いたらファンはどんな反応になるだろうか。
「いやいや、大盛りサービスはすごくありがたいから、ちょっとくらい値上げしてでも続けてよ」
「値上げしないって方針にこだわりすぎて、顧客目線をなくしちゃってんじゃないの?」
そんな辛辣(しんらつ)な批判が飛んでくる恐れがある。そうなると、サイゼリヤとしては今回の大盛り終了を、少しでも「コスト増」を連想させる説明を避けようとなる。なるべく誰にもツッコミを入れられず、サラッと終了させたい。そこで悩んで悩んでひねり出したのが、「品質の安定が困難なため」という説明を、サービス終了前日にリリースという「作戦」ではなかったか。
もちろん、これはあくまで筆者の推測だ。ただ、企業トップが発した衝撃的な宣言に対して、組織全体が振り回され、「忖度(そんたく)」をしなくてはいけない広報や営業などが対外的に、苦しい説明を強いられるのはよくあるパターンだ。
いずれにせよ、日本を代表する外食企業が、「コスト増だから値上げさせてもらいますよ、皆さんもおいしいものを食べたいんだからそれくらいいいでしょ?」なんてことすらも言えないというのは、かなり「異常」な社会ではないか。
サイゼリヤの大盛りがなくなることを「悲報」と言う人も多いが、実は本当の「悲報」は、我々が骨の髄まで「デフレマインド」に支配されてしまっていることかもしれない。
窪田 順生 プロフィール
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
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