サイゼリヤが抱える「オトナの事情」とは
実はこれは同社ならではの「オトナの事情」のせいではないか、と考えている。
というのも実は今、同社は対外的にも、社内のムード的にも「値上げ」を少しでも連想させるようなワードを用いることは“ご法度”になっている可能性があるのだ。
今から約2カ月前の10月12日、サイゼリヤの松谷秀治社長は記者会見で、このように高らかに宣言をしている。
「一番に言わなければいけないのは、値上げをしないということだ」
外食企業は今、値上げラッシュだ。世界的な物価高騰や円安は言うまでもないが、外食バイトの「低賃金重労働」は近年、大きな問題となっているからだ。先進国最低レベルの「安いニッポン」の中でも、外食は高校生バイトや、非正規労働の女性パートなどを安くコキ使うというビジネスモデルが批判を浴びている。
そんな中で外食企業が続々と値上げに踏み切る今のムードの中で、サイゼリヤは「徹底抗戦」をしていくと宣言したわけだ。松谷社長の「給料が物価(上昇)に追いついていない。暮らしが厳しい中、安くて良いものを出す使命がある」という訴えは、ネットやSNSで以下のように称賛された。
「あらゆるものが値上げしてく今の日本でサイゼリヤだけが俺たちの味方だ!」
「庶民に徹底的に寄り添う企業努力に感動しました!」
だが、一方でこの「値上げしません宣言」はサイゼリヤを自縄自縛に陥らせている側面もある。もしコスト増が企業努力で吸収できなくなって値上げに踏み切らなくてはならなくなってしまった場合、「約束を守れ」「裏切られた」と感じるファンから批判を浴びる恐れがある。
そこに加えて、「値上げしない」ということに固執するあまり、企業努力として量を減らしたり、より安い原料を用いるなどで品質を低下させてしまったりして、ファンからそっぽを向かれてしまう危険性もある。
これこそが、「大盛り終了」を「品質の安定が困難」などとおかしな説明をした理由ではないだろうか。
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