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誰かの(自分自身の)傷ついた心を癒す物語だった
スパイダーマンことピーター・パーカーは、前作『ノー・ウェイ・ホーム』で「愛する人たちに危険が及ばないように、全世界の人々から自分の存在の記憶を消す」という重大な決断をしていました。 必然的に、本来であれば一緒に大学生活を送れたかもしれない親友の「ネッド」、さらに恋人でい続けられたのかもしれない「MJ」とも離れ離れになり、孤独に暮らしながらも、正体を隠して人々を救うヒーローのスパイダーマンであり続けるという物悲しさが、彼には付きまとっています。しかも、あっという間に4年の月日も経ち、彼は大人になっていきます。スパイダーマンらしい「おしゃべり」が今まで以上に強調されているのも、寂しさや孤独の裏返しの「独り言」のようにも思えますし、さらに「とある変化」も訪れます。
そのもの悲しさに、監督であるデスティン・ダニエル・クレットンの「心の痛みを描く」作家性が見事にマッチしています。クレットン監督はMCUの1つ『シャン・チー/テン・リングスの伝説』でも高く評価されていましたが、出世作となるのは2013年の『ショート・ターム』という、短期保護施設で過ごしている10代の少年少女を追った作品でした。 その『ショート・ターム』での「心に深い傷がありながらも自立した大人になっていく(周りの大人たちが見守り支える)」過程は、今回の『ブランド・ニュー・デイ』にも通じていたのです。
また、前作『ノー・ウェイ・ホーム』は、過去の『スパイダーマン』の映画に登場した悪役やスパイダーマンたちが登場し、彼らが負っていた心の傷を癒す、という過程が真正面から描かれていました。今回は主人公であるピーター自身が完全に大人になったこともあり、誰かの心を癒すのはもちろん、自分自身をも癒す物語になっている、とも言えるかもしれません。
そして、クレットン監督の2017年公開の映画『ガラスの城の約束』にも出演したセイディー・シンクが、とある重要なキャラクターとして登場します。 その役名は伏せられているので、ここでも秘密にしておきますが、彼女が演じているキャラクターを後追いでもいいので知ってみると、本作の物語は「深く傷ついた心を癒す」ことが一貫していること、優しさに満ちているのだと、よりわかるのではないでしょうか。
また、『ノー・ウェイ・ホーム』『ブランド・ニュー・デイ』に限らず、近年のヒーロー映画は心の傷やトラウマを抱えた誰かを癒す、「セラピー」的な側面を描くヒーロー映画が多くなっています。MCUでは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』や『サンダーボルツ*』、さらに現在はAmazonプライムビデオで配信中の『マスターズ・オブ・ユニバース』もそうでした。
今回の『ブランド・ニュー・デイ』では、そのセラピー的な側面が、スパイダーマンというヒーローの格言である「大いなる力には、大いなる責任が伴う」にも絡んでおり、その尊さをも際立たせていました。
さらに、今回の『ブランド・ニュー・デイ』の物語の根底に優しさがあるからこそ、前述した「容赦なく悪人を殺害する」パニッシャーというキャラクターが「対比」になっています。
正直、見たくないとも思っていた。でも見てよかった。
最後になりますが、筆者個人としては前作『ノー・ウェイ・ホーム』があまりに完璧な終わり方であり、世界から忘れられたスパイダーマンのその後の活躍は「想像する」ことに留めておきたい、正直これ以上の続編は見たくはない、という気持ちを持っていました。今回の『ブランド・ニュー・デイ』でネッドやMJという愛すべきキャラクターの再登場そのものは嬉しいのですが、それでも彼らが記憶を取り戻し、またピーターと友達になったりしたら、前作の重大な選択が台無しになってしまうのでは?と危惧もしていたのです。
ぜひ、前述した通り、映画館で見る機会を逃さないでください。
この記事の執筆者:
ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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