ヒナタカの雑食系映画論 第236回

『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』が「史上もっとも優しいヒーロー映画」になった理由。予習したい作品は?

『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』に「予習」は必要?ということの他、事前に知っておいてほしいポイントを解説しましょう。(画像出典:(C)2026 CPII. All Rights Reserved. (C)& TM 2026 MARVEL)

※以下より、『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』の決定的なネタバレは避けていますが、一部の内容に触れています。また、前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のネタバレを含みます。

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誰かの(自分自身の)傷ついた心を癒す物語だった

スパイダーマンことピーター・パーカーは、前作『ノー・ウェイ・ホーム』で「愛する人たちに危険が及ばないように、全世界の人々から自分の存在の記憶を消す」という重大な決断をしていました。
必然的に、本来であれば一緒に大学生活を送れたかもしれない親友の「ネッド」、さらに恋人でい続けられたのかもしれない「MJ」とも離れ離れになり、孤独に暮らしながらも、正体を隠して人々を救うヒーローのスパイダーマンであり続けるという物悲しさが、彼には付きまとっています。

しかも、あっという間に4年の月日も経ち、彼は大人になっていきます。スパイダーマンらしい「おしゃべり」が今まで以上に強調されているのも、寂しさや孤独の裏返しの「独り言」のようにも思えますし、さらに「とある変化」も訪れます。
ブランドニューデイ
(C)2026 CPII. All Rights Reserved. (C)& TM 2026 MARVEL
そもそも、トム・ホランド主演のスパイダーマンは初登場時には高校生で、キャラクターとしても「幼い」印象がありました。しかし、『ノー・ウェイ・ホーム』では「メイおばさん」を亡くしたこともあり、明確に「子ども時代の終わり」を感じさせていました。さらに、今回の『ブランド・ニュー・デイ』のスパイダーマンは「傷つきながら大人になった」キャラクターとして明確に描かれているのです。

そのもの悲しさに、監督であるデスティン・ダニエル・クレットンの「心の痛みを描く」作家性が見事にマッチしています。クレットン監督はMCUの1つ『シャン・チー/テン・リングスの伝説』でも高く評価されていましたが、出世作となるのは2013年の『ショート・ターム』という、短期保護施設で過ごしている10代の少年少女を追った作品でした。
その『ショート・ターム』での「心に深い傷がありながらも自立した大人になっていく(周りの大人たちが見守り支える)」過程は、今回の『ブランド・ニュー・デイ』にも通じていたのです。

また、前作『ノー・ウェイ・ホーム』は、過去の『スパイダーマン』の映画に登場した悪役やスパイダーマンたちが登場し、彼らが負っていた心の傷を癒す、という過程が真正面から描かれていました。今回は主人公であるピーター自身が完全に大人になったこともあり、誰かの心を癒すのはもちろん、自分自身をも癒す物語になっている、とも言えるかもしれません。

そして、クレットン監督の2017年公開の映画『ガラスの城の約束』にも出演したセイディー・シンクが、とある重要なキャラクターとして登場します。
その役名は伏せられているので、ここでも秘密にしておきますが、彼女が演じているキャラクターを後追いでもいいので知ってみると、本作の物語は「深く傷ついた心を癒す」ことが一貫していること、優しさに満ちているのだと、よりわかるのではないでしょうか。

また、『ノー・ウェイ・ホーム』『ブランド・ニュー・デイ』に限らず、近年のヒーロー映画は心の傷やトラウマを抱えた誰かを癒す、「セラピー」的な側面を描くヒーロー映画が多くなっています。MCUでは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』や『サンダーボルツ*』、さらに現在はAmazonプライムビデオで配信中の『マスターズ・オブ・ユニバース』もそうでした。
今回の『ブランド・ニュー・デイ』では、そのセラピー的な側面が、スパイダーマンというヒーローの格言である「大いなる力には、大いなる責任が伴う」にも絡んでおり、その尊さをも際立たせていました。

さらに、今回の『ブランド・ニュー・デイ』の物語の根底に優しさがあるからこそ、前述した「容赦なく悪人を殺害する」パニッシャーというキャラクターが「対比」になっています。
ブランドニューデイ
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クレットン監督は「フランク・キャッスル(パニッシャー)はスパイダーマンにとっての警告の物語です。ピーター(スパイダーマン)が何の教訓も学ばず、仕事の中へ消え続ければ、彼はパニッシャーになってしまうかもしれません」ともコメントしているように、スパイダーマンとパニッシャーという相対するヒーローが、それぞれどのような道を辿るのかにも、ぜひ注目してほしいのです。

正直、見たくないとも思っていた。でも見てよかった。

最後になりますが、筆者個人としては前作『ノー・ウェイ・ホーム』があまりに完璧な終わり方であり、世界から忘れられたスパイダーマンのその後の活躍は「想像する」ことに留めておきたい、正直これ以上の続編は見たくはない、という気持ちを持っていました。

今回の『ブランド・ニュー・デイ』でネッドやMJという愛すべきキャラクターの再登場そのものは嬉しいのですが、それでも彼らが記憶を取り戻し、またピーターと友達になったりしたら、前作の重大な選択が台無しになってしまうのでは?と危惧もしていたのです。
スパイダーマン
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しかし、本作では、そこにも明確かつ安易ではない、「答え」を用意していました。それでも一定の賛否も呼ぶかもしれませんが、何より「傷つきながら大人になったスパイダーマンを描く」「誰かを自分を癒す優しい物語」を誠実に描いていたため、「見たくない」と思っていた気持ちは完全に覆り、心から「見てよかった」と思えたのです。

ぜひ、前述した通り、映画館で見る機会を逃さないでください。
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
ヒナタカ
この記事の執筆者: ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。 ...続きを読む
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