ヒナタカの雑食系映画論 第224回

映画『未来』で描かれる児童虐待、いじめ……注意が必要な点と、どうしても気になったこと。それでも見てほしい理由は

未成年への性暴力やいじめの描写がある映画『未来』では、インティマシー・コーディネーターの浅田智穂がクレジットされていることを確認できました。その上で、どうしても気になったことがあったのです。(※画像出典:(C)2026 映画「未来」製作委員会 (C)湊かなえ/双葉社)

インティマシー・コーディネーターとして浅田智穂がクレジット。だけど……

本作のエンドロールでは、インティマシー・コーディネーターの浅田智穂がクレジットされていることを確認できました。

インティマシー・コーディネーターとは、性的なシーンの撮影において、監督やスタッフ、関係各所との仲介や調整、俳優の精神的なケアを行う職業です。2024年に公開された映画『先生の白い嘘』では監督の「俳優から要望を受けたインティマシー・コーディネーターを入れなかった」発言が大きな問題として取り上げられ、同時にその職業の重要性が広く認知されるきっかけにもなりました。 インティマシー・コーディネーターは俳優はもちろん関係者にとって「安心して映画制作に挑める」重要な存在となっていますし、それは映画を見る観客にとっても「映像では苛烈な描写があっても俳優はちゃんと守られているんだな」と、やはり安心できる理由になります

その上で、どうしても気になってしまったのは、今回の映画『未来』の各種インタビューやプレス資料では、筆者個人が調べた限りではインティマシー・コーディネーターの記述が見つからなかったこと、少なくとも強く広くそのことが告知されていない、ということです。

例えば、2023年公開の映画『52ヘルツのクジラたち』ではやはりインティマシー・コーディネーターの浅田智穂のほか、LGBTQ+インクルーシブディレクターのミヤタ廉が参加しており、インタビュー記事では多方面へ配慮された作品であることが分かるようになっています。

また、直近では4月に公開された映画『炎上』でも浅田智穂が参加しており、監督とのインタビュー記事が発表されているほか、トークイベントも実施されていました。

さらに、監督の過去の問題を受けて公開延期の後、8月28日に公開日が決まった映画『時には懺悔を』でも、インティマシーコーディネーターの起用、障がいを持つ子どもへの配慮、ハラスメント講習の実施についてのステイトメントが発表されていました。

そうした事例があり、やはり今回の『未来』のように未成年への性的虐待やいじめの描写が苛烈な作品では、しっかりインティマシー・コーディネーターの起用を強めに明記しておくことも、また必要なのではないか、と思えるのです。

もちろん、今後はインティマシー・コーディネーターが「当たり前」のものとして強く言及されなくなっていくことも考えられますが、今はまだ「過渡期」でしょう。

なお、浅田智穂はドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』のインタビュー記事において「インティマシー・コーディネーターをクレジットしておけば、作品を守るためのいわば“アリバイ作り”になるだろうと、その役割をきちんと理解しないままオファーしてくる方がいたのも事実」「しっかりと私の本来の役割を伝え、その役割を遵守させていただけないのであれば入る意味がありませんとお話しして、事前にお断りしています」と語っています。

同じくインティマシー・コーディネーターの西山ももこも、ドラマ『25時、赤坂で』のインタビュー記事において、「“現場にインティマシー・コーディネーターを入れておけばいい”というわけではないと思います」「私は、自分の仕事ができない現場には入りません。名前だけ貸してほしいと言われてもお断りしますし、現場に行けない依頼は受けないと決めています」とも答えています。

そうであればこそ、この『未来』において、ただ浅田智穂という名前がクレジットされているだけではない、実際にはしっかりした配慮も、俳優への精神的なケアも行われていたはず、とは推察できます。インティマシー・コーディネーターが参加している事実を、ひとまずは安心して見ることができる指針のひとつとして、捉えておくのがいいでしょう。

フィクションだが、現実の子どもの貧困や虐待の問題を参照している

そうした注意点や懸念点も踏まえた上で、映画『未来』は掛け値なしに素晴らしい作品だと思えました。

何より、本作は完全なフィクションであり、「20年後の自分から手紙が届く」というファンタジー(?)の描写もある一方で、現実の子どもの貧困や虐待の問題を参照しています。
未来映画
(C)2026 映画「未来」製作委員会 (C)湊かなえ/双葉社
例えば、プレス資料によると2022年の調査では日本の子どもの相対的貧困率は11.5%と発表されており、30人のクラスなら3人はいる、という割合なのだそうです。原作者の湊かなえもあとがきで、「レアケースを一堂に会して、自分が目立つために、インパクトの強い物語を作ったわけでもありません」と宣言していました。

劇中の未成年者の暴力や性的虐待、いじめの描写の苛烈さからは「どこか別の世界の話」のように思う人もいるかもしれませんが、実際は「現実にある」問題なのです

また、原作小説では語り手の異なる6つの章から構成されていましたが、瀬々監督と脚本を担当した加藤良太によると「誰かが誰かを救おうとする物語である」という大きな幹を貫くことによって、約2時間の映画の脚本としてまとめられたのだそうです。

異なる時代のとある場面が「呼応」しているように見える場面は映像作品ならではの演出であると思えましたし、大きく分けて「3つの場所と時間」での構成はテクニカルながらわかりやすく、ミステリーとして先が気になりますし、かつ終盤に告げられるとあるメッセージと強く結びついているものでした。
未来映画
(C)2026 映画「未来」製作委員会 (C)湊かなえ/双葉社
それらの描写から導き出されるのは、橋口一成プロデューサーが「表現したいことは『大人が子どもたちの未来を守る』という一つに集約される」と明言している通りの、シンプルでありながら、とても大切なメッセージであると思いました。

本作を見て、大人それぞれが、過酷な状況にいる子どもへ、未来を提示するために何ができるのか。考えるきっかけにしていただきたいです。

※山崎七海の崎は「たつさき」が正式表記
ヒナタカ
この記事の執筆者: ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。 ...続きを読む
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