3位『きみの色』(2025年2月26日にBlu-ray&DVDが発売予定)
映画『聲の形』やテレビアニメ『平家物語』の山田尚子監督の最新作で、3人の少年少女がバンドを組む、原作のない完全オリジナルの青春音楽映画です。水彩画が動いているかのような美しいアニメの表現や、少年少女たちそれぞれの「好き」があふれ出すような優しい物語、かわいくてポップな楽曲など、それぞれの要素が「大きな出来事がほとんど起こらない」ことで、さらに魅力的に思える内容でした。
劇中の多くは主人公・トツ子の主観で物語が進み、それは「秘密とうそ」「選択と過程」を肯定する物語として必然的な語り口だと思えました。見終わってみれば、「好きなことは、周りからの影響をきっかけにしつつも、自分で見つけることができる」「自分の魅力や内面は“原点”を振り返ってみることで気付くことができるかもしれない」といった発見もあるので、若者にももっと届いて欲しいです。
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2位『がんばっていきまっしょい』(下北沢トリウッドやシネマサンシャイン衣山で上映継続中)
1998年に実写映画化、2005年にドラマ化もされた、同名の小説を原作としたボート競技に挑む少女を描いた作品。ある理由で頑張れなくなった主人公が、頑張るための理由を、仲間たちを通して見つけていく物語です。試合上の駆け引きを重視した作品ではありませんが、仲間たちが奮闘し、大切なことを知り成長する青春劇として「王道」の魅力が詰まっていました。
キャラクターそれぞれが愛らしいのですが、さらに重要なのは繊細な心理描写と美しい風景の数々。3DCGだからこその「広がり」もまた素晴らしく、あるシーンで目の前の海がぱっと広がる様が、その時の主人公の心理と一致しており、心からの感動があります。個人的にはスポーツを扱った映画の中で最も好きな、ずっと大切にしたい作品になりました。
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1位『トラペジウム』(Blu-ray&DVDが2025年2月26日発売予定)
小説を原作としたアイドルを夢見る少女の物語で、劇場公開時から話題となったのは主人公の言動の強烈さ。特に「彼氏がいるんだったら友達にならなきゃよかった」「こんなすてきな職業ないよ!」のセリフは、かつてない恐怖を覚えるほどでした。しかし、だからこそ、彼女が好きなことにとことん固執するからこそ盲目的になり失敗し、そこから大きな反省をする過程に大きな感動がありました。
アニメとしての演出に手が込んでおり、特に「信号機」や「風見鶏」がキャラクターの心の動きを示していることにも、ぜひ注目してほしいです。友達であり、アイドルになることを誘われた3人の女の子たちが、どれほどに主人公のことが好きで、救われていたのかを考えてみるのもいいでしょう。筆者は見るたびに新しい発見があり、その感想も変わっていきました。
1回目「いや自分は好きだけど、賛否はめっちゃ分かれるでしょ!」→2回目「初めは主人公の露悪的なところばかり見てしまったけど、そのほかの心理にこそ奥深さがあるな」→3回目「みんな主人公のこと大好き過ぎるでしょ……やっとこのセリフのすごさに気づいた……」→4回目「これは歴史を塗り替える青春映画の大傑作だ……!」というように。
決して万人が絶賛する作品とは言えませんが、細部に制作スタッフのこだわりが詰まっており、キャラクターみんなが見れば見るほどに好きになれる(たまに「そういうとこだぞ」と主人公を叱りたくもなる)ため、噛めば噛むほど味が出る、「劇薬映画かと思いきやスルメ映画」といえる魅力に満ち満ちた1本です。
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ほかにも忘れ難い、日本のアニメ映画&海外アニメ映画!
そのほかでは、『BLOODY ESCAPE 地獄の逃走劇』『傷物語 -こよみヴァンプ-』『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』『劇場版ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』『クラメルカガリ』『クラユカバ』『映画 それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』『劇場版モノノ怪 唐傘』『わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー! ドキドキ・ゲームの世界で大冒険!』『ふれる』『こまねこのかいがいりょこう』『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』も忘れられない作品でした。海外のアニメ映画にも、ぜひ注目してほしいです。特に『トランスフォーマー/ONE』と『ロボット・ドリームズ』は「仲良しだった2人の関係性」の尊さと切なさに満ちた作品でした。わずか20館の劇場で公開スタートした『ロボット・ドリームズ』が口コミ効果で、日本での興行収入が1億円を突破したことも、とてもうれしいです。 また、12月27日より日本公開の『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』は、監督はテレビアニメ『東のエデン』の神山健治、アニメーション制作は『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』のSola Entertainmentで、実際の本編でも日本のアニメらしさを感じられますが、制作の主導はアメリカであり、アメリカ映画という扱いになっています。大作映画『ロード・オブ・ザ・リング』3部作の前日譚ながら、予備知識がなくても楽しめる、戦争の残酷さとむなしさをはっきりと描く内容になっていました。
大ヒットした8位の『劇場版ハイキュー!!』と7位の『ルックバック』以外は、まだ見ていないという人も多いことでしょう。ぜひとも、年末年始で優先的に見る選択肢に入れてみてほしいです。
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この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。