ヒナタカの雑食系映画論 第62回

2024年、この幕開けだからこそ見てほしい。1月5日公開のとっておき5作品をいきなりレビューしてみた

2024年1月5日に劇場公開となったばかりのおすすめ映画5作品を、まずは景気のいいアクション映画から、一挙に紹介していきましょう。※画像出典:(C) 2022 Ex4 Productions, Inc.

3:『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』

人体実験によって改造人間となった男が、不死身の吸血鬼集団やヤクザたちと戦いながらも逃げ惑うという、バイオレンスアクションアニメ映画です。いくつかの「クラスタ」に強制的に分けられた東京が舞台で、映画『マッドマックス』的でもある退廃的な世界観と、クールでイケメンお兄さん&かわいい女の子たちのキャラクターなど、コアな映画&アニメファンが大喜びできる要素がそろっていました。

原案・監督・脚本を手掛けたのは、アニメ『コードギアス』シリーズや映画『ONE PIECE FILM RED』(2022年)で知られる谷口悟朗。人間のダークサイドを容赦なく見せる様や大胆なアクション描写が実に「らしい」ので、谷口監督ファンにとっても大満足できる1本でしょう。声優も超豪華で、特に山寺宏一の「聖人っぽく見える敵」の言動がとがっていて最高でした。

実はメディアミックス企画「エスタブライフ」シリーズの映画版で、テレビアニメ『エスタブライフ グレイトエスケープ』(フジテレビ系)で主人公チームだった「逃し屋」の女の子たちも登場します。今回の映画だけでも問題なく楽しめる親切設計でありながら、凝りに凝った設定や世界観の魅力から、ほかのシリーズを追ってみたくなるのも美点です。

4:『笑いのカイブツ』

「伝説のハガキ職人」として知られ、作家や詩人としても活躍するツチヤタカユキによる同名の私小説が原作、つまりは「実話ドラマ」なのですが……いい意味で、ぜんぜん普通のサクセスストーリーではありません。とにかく主演の岡山天音の目つきと雰囲気が尋常なものではなく、タイトルさながらの「カイブツ」を主人公としているのですから。

彼は狂ったようにネタを番組に投稿し続け、「継続は力なり」を証明したかのように構成作家の仕事についたと思いきや、「すぐに悪態をつく」「あいさつもできない」など、あまりに社会性が欠如しているため、いろいろな関係をすぐに台なしにしてしまいます。不器用を通り越して常識はずれにもほどがある生き様は感情移入すら阻むレベルですが、ものすごいインパクトを残すでしょう。

それでいて、「こんなにダメな主人公のことを見捨てられない周囲の人々の気持ちもなんとなく分かる」ことが大きな魅力にもなっており、仲野太賀や菅田将暉の行動や言葉が特に沁みました。新年、何かを始めたいと思う人はひとまず見てみるといいと思います。単純な勇気や希望とは違う、「何か」は間違いなく得られると思いますから。

余談ですが、劇中の架空の芸人「ベーコンズ」は、現実では言わずと知れた大人気コンビ「オードリー」に当たります。脳内で置き換えつつ、見てみるのもいいかもしれません。

5:『コンクリート・ユートピア』

未曽有の大災害が発生し、奇跡的に倒壊しなかったマンションの住民が周囲に排他的かつ差別的に振る舞ってしまうというディストピアサスペンスです。目に生気のないイ・ビョンホンが権力者として次第に狂気をあらわにして行く様は生々しく、その行動に懐疑的になりながらも従ってしまう平凡な男の姿には「分かってしまう」ものがありました。

はじめこそ存在していた助け合い精神はどこへやら、深刻な状況が続いた結果としての人間の醜さを丹念に示してくれるため、やはり現実で大震災が起こった今では「見たくないもの」とも思ってしまいますが……「こうならない(させない)ために自分たちに何ができるか」を現実と照らし合わせながら考えることもできるので、今こそ見てほしいという気持ちも同居しています。

ただ陰惨なだけなく、終盤までとある「秘密」が物語の大きなフックとなるのがうまいものですし、『パラサイト 半地下の家族』(2020年)のように社会構造を極端な(だけど現実に存在し得る)状況下に置き換えてエンターテインメントに仕上げた内容であるため、劇中で起こる出来事が苦しくはあっても、比較的万人向けの作品ではあるでしょう。ラストはセリフを含めて、とても胸に迫るものでした。
 
なお、この『コンクリート・ユートピア』と同じ世界観を共有している『バッドランド・ハンターズ』が1月26日よりNetflixで配信予定。こちらは世界的なアクションスターであるマ・ドンソクの活躍も期待できる内容となっていますよ。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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