ヒナタカの雑食系映画論 第61回

映画『スパイファミリー』は『クレヨンしんちゃん』を目指している? 面白さと隣り合わせの「制約」とは

『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』はとても面白い映画でしたが、『スパイファミリー』という作品ならではの「制約」をよくも悪くも感じさせました。『クレヨンしんちゃん』の映画を連想させる理由も合わせて解説しましょう。

スパイファミリー
写真は筆者撮影
上映中の『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』は公開3日間で観客動員数86万6000人、興行収入12億2400万円を記録する大ヒットスタートを切りました。

結論から申し上げれば、タイトルさながらにファミリー層におすすめできる、見どころ満載の面白い映画でした。冒頭から分かりやすいキャラクターや舞台設定の説明がありますし、大きなスクリーンで映える大迫力のアクションも展開するため、『スパイファミリー』をまったく知らない人でも問題なく楽しめるでしょう。

しかし……『スパイファミリー』という作品がそもそも持っていた、とある「制約」を、よくも悪くも強く感じてしまったというのも正直なところです。

さらに、SNSで話題となっているのは、「『クレヨンしんちゃん』の映画っぽい」ということ。犬を含む家族が活躍するアニメ映画ということがまず共通していますし、今回の『スパイファミリー』の映画が「この方向性」になったことが、それなりに賛否両論を呼んでいたりもするのです。

それらの理由を、まずは『スパイファミリー』という作品の特徴と魅力を振り返ってから、順を追って記していきましょう。
 

『スパイファミリー』が人気を得た理由の筆頭は?

原作漫画『SPY×FAMILY』(集英社)は累計発行部数が3100万部を突破し、テレビアニメも超大ヒットとなった社会現象級のコンテンツです。

人気の理由の筆頭は、キャラクターの魅力。「ちち」ことロイド・フォージャーはイケメンの上にあらゆる能力に長けているお兄さん、「はは」ことヨル・フォージャーは常に敬語で話す天然気味なお姉さん、そしてアーニャ・フォージャーは無邪気で好奇心旺盛の子ども。実質的に3人いる主人公(+犬のボンド)のかっこよさ&かわいらしさにハマった人が多いのでしょう。
 
さらなる特徴は、それぞれが互いの正体を秘密にしている「偽装家族」だということ。ロイドはスパイ、ヨルは殺し屋、アーニャは人の心を読む超能力者、犬のボンドは予知能力の持ち主。ロイドがアーニャを養子に迎えたのは命じられた任務を遂行するため、ヨルとの偽装結婚も互いの利害の一致のためだったのですが、そんな彼らが本当の家族よりも楽しく幸せに暮らしている、いや本当の家族そのものに見えてくるという関係性もまた、たまらなく魅力的なのです。

「親しい人にも隠し事をしている」ことへの共感も?

原作漫画の冒頭では、「人はみな、誰にも見せぬ自分を持っている。友人にも、恋人にも。家族にさえも、張りつけた笑顔や虚勢で本音を隠し、本性を隠し、そうやって世界は、かりそめの平穏を取り繕っている」と語られています。
 
前述した通り設定は極端ですが、この言葉の通り、なるほど誰にでも多かれ少なかれ隠し事はあるし、それを親しい人にも明かさないことで平和な日常を手にしているというのは、実は普遍的なことでしょう。

その一方で、子どもには(それこそ超能力のように)「両親それぞれの気持ちや秘密がバレてしまっている」というのもよくあることだと、作品に触れた人が潜在的に共感しているからこそ、『スパイファミリー』はここまでの人気を得たのかもしれません。
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『スパイファミリー』の制約とは?
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