ヒナタカの雑食系映画論 第61回

映画『スパイファミリー』は『クレヨンしんちゃん』を目指している? 面白さと隣り合わせの「制約」とは

『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』はとても面白い映画でしたが、『スパイファミリー』という作品ならではの「制約」をよくも悪くも感じさせました。『クレヨンしんちゃん』の映画を連想させる理由も合わせて解説しましょう。

※ここからは、物語上の核心的なネタバレにならない範囲で『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』の一部内容に触れています。ご注意ください。

『スパイファミリー』の設定そのものが制約に

『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』や『劇場版 呪術廻戦 0』では原作にあった物語をアニメ映画化していたのに対し、今回の『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』は劇場版オリジナルストーリーとなっています。

メインプロットは「初めての家族旅行で世界の命運に関わる陰謀に巻き込まれる」と一行で紹介できるほど分かりやすいですし、前述してきたキャラクターの魅力が「原作およびアニメそのまま(時にはややオーバー?)」なことに感心しました。

全体的にコミカルなやりとりが多いので、子どもから大人までクスクスと笑って楽しめるでしょうし、『スパイファミリー』をよく知らない人でも3人の主人公のことを好きになれるでしょう。
 

ただ、まさに『スパイファミリー』らしい「家族が互いの正体を秘密にしている」という、まさに制約のある中で物語を動かすことに、苦慮している印象が大いにありました(劇場パンフレットでも作り手の苦労が語られています)。

詳しくはネタバレになるので伏せておきますが、中盤からは特に「それぞれを戦いの場に参加させるために逆算的に設定と展開を考えている」ような、作為的なものを感じてしまったのです。

『名探偵コナン』の映画と同様の「本編の物語とは関わりのない番外編」にする制約も

さらには劇場版オリジナルストーリーであるため、『名探偵コナン』の映画がそうであるように、「本編の物語とは関わりのない番外編」「正体がバレそうになってもバレないまま」にする必要があります

前半でヨルがロイドの浮気を疑う流れは見ていて楽しくはあるのですが、よくも悪くも単なる彼女の「1人相撲」に終わってしまいます。

終盤ではかなり激しいアクションと大掛かりなスペクタクルも用意されているため、仕方がないことだと分かりつつも、「これでもまだ互いの秘密を知らないままでいられるだろうか?」とも思ってしまいました。
 
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原作やアニメにあったエピソードと比較しても「強引」な描写
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