1:『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』3月22日公開
浅野いにおによる同名漫画のアニメ映画化で、巨大な宇宙船が突如として現れた東京の街での女子高生たちの日常をつづる、ほのぼのとした作品かと思っていると……詳細は伏せておきますが、中盤からの展開と演出に鳥肌が立ち、目を見開き涙する、とんでもない衝撃が待ち受けていました。美麗な風景の数々はそれだけで見とれますし、かわいらしいデザインのキャラクターそれぞれの細かやかな心理描写に心をわしづかみにされるでしょう。 浅野いにおは会議やアフレコに携わるだけでなく、前章だけでも100から200カットのリテイクを制作チームに頼み、自身が直接レタッチや絵を全部描いているところもあって、完成披露試写後もリテイク作業を続けてといると語っています。このアニメとしてのとんでもないクオリティは、原作者が制作にがっつり関わっていてこそのものでもあるのでしょう。
さらに、2人の主人公の声およびコラボソングとなる主題歌を担当したのは、どちらも紅白歌合戦に出場した幾田りらとあの。今回の役へのハマりぶり、そして演技は神がかりです。前者は真面目でちょっとダウナー、後者はいわゆる不思議ちゃんだけど根は素直なキャラクターで、対照的な2人それぞれに訪れる「変化」の表現に、震えるほどの感動があったのです。 さらには、この映画の公開前に訃報が届いた、『ちびまる子ちゃん』のまる子の声でおなじみのTARAKOの遺作(の1つ)であり、劇中では『ドラえもん』のパロディ的な漫画における、のび太のようなキャラクターを演じ切っていました。この漫画は単にネタとして入れているわけではなく、「藤子・F・不二雄によるダークなSF短編」のような本編の印象に絶妙に絡んだ、大いにリスペクトを感じるものでした。
なお、レーティングはG(全年齢)指定ですが、原作は青年誌掲載であり、わずかに性的な話題や、やや間接的ながらショッキングかつ残酷な表現もあるため、小さいお子さん向けの内容ではなく、中学生(少なくとも小学校高学年)以上推奨の作品だと申し上げておきます。この前章だけだと、先が気になるという純粋な興味はともかく、大きな疑問が残りよくも悪くもモヤモヤを抱えることも事実でしょう。 そのうえで、この『デデデデ』はまだ「前章」の段階で、完成披露試写会と先行上映回で万雷の拍手が起こっていたことに大納得できる、『ゴールド・ボーイ』に並ぶ筆者個人の現時点での2024年のベスト映画候補の傑作です。楽しく明るいだけではない、終末映画にして「暗黒」青春映画を求める人はひとまず見てみて、5月24日公開の『後章』を心待ちにしてほしいです。
※編集注:『後章』の公開日について、初出時は4月19日と記載しておりましたが、3月18日の公式発表により、5月24日に変更させていただきました。訂正してご報告いたします。
2&3:『クラユカバ』&『クラメルカガリ』4月12日公開
長年にわたり個人映像作家として活動してきた塚原重義監督による、同日公開の2本の長編(それぞれ上映時間は約1時間)アニメ映画です。2作に共通した大きな魅力は、大正時代と「スチームパンク」が組み合わさったレトロな世界観と、落語や歌舞伎の「口上」を思わせる勢いのあるナレーション。唯一無二といってもいいほど、オリジナリティと強い作家性を感じる内容になっていました。『クラユカバ』は地下世界に足を踏み入れる私立探偵の活躍を描く作品で、謎めいた場所での冒険が面白い内容。『クラメルカガリ』は閉鎖的な場所での少年少女の心の揺れ動きを描くことから、日本の漫画『銃夢』(集英社)も連想しました。
『クラユカバ』での講談師である六代目・神田伯山のやさぐれた青年、『クラメルカガリ』での佐倉綾音の控えめのようで芯のある少女など、豪華なボイスキャストのハマりぶりと、クセの強いキャラクターどうしの掛け合いも大きな見どころ。『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』と同日公開かつやや限られた上映館数ではありますが、世界観やキャラクターを直感的に好きになった人には大推薦します。
なお、2本のどちらを先に見ても楽しめますが、個人的にはより親しみやすい『クラメルカガリ』から、よりディープな『クラユカバ』、という順に見るのがおすすめです。