3:『落下の解剖学』
第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞の5部門にノミネートされるなど、絶賛に次ぐ絶賛で迎えられているフランス映画です。あらすじは、山荘で作家の夫が転落死し、その妻が殺人の容疑で疑われ、重要な証人になったのは視覚障がいをもつ息子だった……というもの。その後は検事と弁護士を交えての「法廷もの」になっています。まず連想する作品は、芥川龍之介の小説を映画化した『羅生門』。真相が不明瞭な出来事に対して、意見の食い違いや思い違いが提示され、観客をいい意味で困惑させてくれます。はたまた、夫婦の関係性の悪化、その根本となる軋轢(あつれき)の原因が描かれる様は『ゴーン・ガール』も思わせました。独身者が見ればきっと「結婚したくなくなる」内容でもあるでしょう。
予告編でも見られる、主人公と弁護士の会話「私は殺してない」「そこは重要じゃない」が、作品そのものを象徴しているともいえます。「事実」ではなく「どう見られるか」が、裁判ではもちろん、ほかの事象でも重要視される恐ろしさを、劇中の種々の要素から感じられるでしょう。「主人公はフランス語に不慣れなため英語で話す」ことも、ほんの少しだけ「会話の内容の齟齬(そご)」につながっているように思えて、さらにゾッとさせられます。
上映時間は152分と長尺の部類ではありますが、頭をフル回転させて考えられる面白さに満ちているため、作品に没入できる、劇場のスクリーンでの環境でこそ見てほしいです。犬も名演技ですよ。
岡田将生演じる殺人犯が少年少女に脅迫される映画も大推薦!
さらに、3月8日公開の『ゴールド・ボーイ』も大推薦したい傑作です。こちらのあらすじは、「人を殺した証拠をつかまれた男が3人の少年少女に脅迫される」というもの。その時点で面白さが保証済みだと思っていたら、予想の7、8倍の面白さが積み重なっていく、一級品のエンターテインメントに仕上がっていました。
何より、その人殺しを演じるのが岡田将生。「殺人を犯しても平然と悲劇の人物を装える演技力がある」サイコ感に満ちた役にバッチリとハマっており、年端もいかない少年少女と「対等に接しようとする」様にはどこかブラックユーモアもあります。彼と心理戦を繰り広げる、羽村仁成の表現力にも大注目です。
原作は中国の小説『悪童たち』で、Amazonプライムビデオではそのドラマ版『バッド・キッズ 隠秘之罪』が見放題なので、そちらと見比べてみるのも一興でしょう。しかし、筆者個人としては、「あらすじ以外の予備知識なく」「公開されたらできるだけ早く」、この『ゴールド・ボーイ』を見てほしいと願います。
なぜなら、本作は「ネタバレ厳禁の衝撃の展開」が待ち受けているから。「見たいものを見せてくれる」映画ももちろん良いですが、「予想を超えてくる驚き」を与えてくれるエンターテインメントもまた格別で、それは前述した三者三様のミステリー・サスペンス映画にも当てはまると思うのです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。