3位:『劇場版モノノ怪 唐傘』(7月26日より公開中)
2006年に放送されたテレビアニメ『モノノ怪』(フジテレビ系)の劇場版で、なんと約17年ぶりとなる新作です。表現の独自性は極まっており、「和紙」の質感、「素早いカット割り」で見せる会話劇、「空間」を感じさせる3D作画、そして主人公の薬売りのかっこいいアクションなど、それぞれが惚れ惚れとできるでしょう。音響のこだわりも半端なく、映画館という閉じられた環境でこそ、『モノノ怪』の特徴である「限定空間でのサスペンス」をより堪能できるはずです。 映像面では絶賛に染まっている一方で、賛否両論を呼んでいるのは物語の難解さ。テレビアニメ版もあえて説明しすぎない、抽象的な表現で事態の背景を示す作劇もまた魅力的だったのですが、この劇場版では(次回作への布石のためか)明確な回収がされない要素もあり、良くも悪くもモヤモヤした気持ちが残ってしまうのは事実でしょう。 しかし、物語の舞台が「大奥」であり、その搾取の構造と、新人のお手伝いであり親友同士である女性2人の関係に注目すれば、現代社会でも決して他人事ではない、女性への苦しみに向き合った誠実なメッセージを受け取れるとも思います。怪奇ホラーテイストを主体にしつつも、実は王道かつ最新の「シスターフッド」ものでもあるのです。
筆者が劇場で見た時は女性の観客が9割以上を占めていた印象でしたが、テレビアニメ版からの話のつながりはほとんどなく、予備知識なくても楽しめるので、もっと男性にも見てほしい作品です。2025年3月14日に公開予定の『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』にも大いに期待しています。
2位:『化け猫あんずちゃん』(7月19日より公開中)
同名漫画を原作とした本作の何よりの魅力は、実写で撮った俳優の動きをアニメに描きおこす「ロトスコープ」で撮られているということ。「貧乏神に“くじ”での勝負を持ち掛ける」や「自転車を盗まれた時の戸惑い」といった、アニメで描かれたキャラクターそれぞれの「実写でもこうなんだよなあ」と思える動きそのものに感心できるし面白いのです。 小学生の女の子「かりん」が、母を亡くして、さらに父に捨てられた(と思っている)境遇で、舌打ちをしたり辛辣(しんらつ)な物言いをすることも、重要な意味を持っています。彼女は人前では猫をかぶり、喫茶店で男の子2人におごって手なづけようとしたりと「したたか」に振る舞っているようで、年齢相応の不安や悲しみを背負っていることも伝わるでしょう。かわいい絵柄の、しかも実写と同じ動きをするアニメという手法だからこそ、彼女の悪意を含めて「包む」ような優しさを感じました。 さらに、実写だと異質な空間に思えるはずの「地獄」という舞台が「今までと地続き」に思えたり、ロトスコープでは表現し得ないアクションも『劇場版クレヨンしんちゃん』的な躍動感がたっぷりだったりと、アニメの特性を生かしつつ、その制約にもとらわれない挑戦そのものも作品に見事に結実していました。
余談ですが、前述した『めくらやなぎと眠る女』とは大きなカエルが登場するというまさかの共通点もあります。この『化け猫あんずちゃん』のカエルを演じているのは、現在公開中のホラー映画『Chime』で主演を務めた吉岡睦雄なので、『Chime』が怖すぎた人はこちらを見て恐怖を中和するのもいいかもしれません。上映開始から約1カ月がたち、上映回数はごくわずかになっていますが、本作は老若男女におすすめできる作品でもあるので、ぜひ最優先で見てほしいです。
【関連記事】『魔女の宅急便』のマックのCMにそっくり? 映画『化け猫あんずちゃん』のかわいいだけじゃない魅力