ヒナタカの雑食系映画論 第114回

「2024年夏に見てよかったアニメ映画ランキング」をガチで作ってみた。映画オタクが厳選したベスト5

2024年夏に公開された、またはこれから公開されるアニメ映画から、心から見てよかったと思えたベスト5を発表しましょう。(※サムネイル画像出典:『劇場版モノノ怪 唐傘』より (C)ツインエンジン)

1位:『きみの色』(8月30日より公開予定)


原作のない完全オリジナルのアニメ映画であり、2人の少女と1人の少年が、スリーピースバンドを組む青春音楽劇です。何より注目は山田尚子監督×吉田玲子脚本というタッグで、2009年からの放送のテレビアニメ『けいおん!』(TBS系列ほか)にもあった音楽活動をする女の子たちのやりとりのかわいらしさ、さらに2018年のアニメ映画『リズと青い鳥』に通ずる2人の女の子の心理が繊細かつ濃厚に描かれるなど、2人の「女の子大好き!」な作家性が全力で投入された作品に仕上がっていました。
きみの色
『きみの色』 8月30日(金)劇場公開 配給:東宝 (C)2024「きみの色」製作委員会
ミッションスクールという「神聖」な舞台で、その場を取り繕う“うそ”をついてしまった主人公と、学校を中退して古書店でアルバイトをしている女の子、さらには離島に住み母親に家業の病院を継ぐことを期待されている男の子が、それぞれが悩みを抱えつつも練習に向き合い、ちょっとした「冒険」も通じて成長していく様を描きます。女の子だけでなく男の子もバンドの一員となること、その男の子が中性的な存在感で違和感なくその中で溶け込むことも、今の時代らしい尊さを覚えました。
きみの色
(C)2024「きみの色」製作委員会
オリジナル企画の青春アニメ映画であることは『君の名は。』と共通していますが、そちらの壮大さとは正反対のミニマムな青春劇であり、絵柄と作劇が「淡い」印象であることこそが魅力的です。劇的な展開は少なく落ち着いていて、だからこそキャラクターの内面や背景に広がりを感じさせます。何より雰囲気そのものが心地よくて、「ずっと見ていたい」とさえ思えたのです。

そして、劇中歌の『水金地火木土天アーメン』のポップさとかわいらしさがまたとんでもない……! ポスタービジュアルにもなっているバンドの演奏シーンは、前述した『ぼっち・ざ・ろっく!』に通ずる魅力がありますし、やはり劇場の音響でこそ体感してほしいと思うのです。
 

なお、同じく山田尚子監督×吉田玲子脚本というタッグ、さらには牛尾憲輔による音楽も共通している、2016年の劇場公開当時に絶賛の嵐となった『映画 聲の形』が8月16日に『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で地上波放送されます。こちらは小学生時代のいじめという重い出来事を前提にしつつも、それからの背負い続けた罪からの救いを描いたとても尊い作品なので、ぜひ併せて見てほしいです。
『きみの色』は『聲の形』よりもややライトな作風ともいえますが、共通する物語の奥行きを備え、さらに学校や将来に悩みを抱えている少年少女の心理に向き合っていますし、夏休み終わりに公開されることにも優しさを感じます。『聲の形』と同様に、『きみの色』も若い人に届くことを願っています。

ほかにも注目のアニメ映画は?

広く公開中のアニメ映画には『インサイド・ヘッド2』『怪盗グルーのミニオン超変身』『クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』『劇場版すとぷり はじまりの物語 Strawberry School Festival!!!』があり、8月16日公開予定の『ねこのガーフィールド』や、さらに6月に公開され今も上映中の『ルックバック』もあります。
 

さらに、新作ではないですが、2022年公開のスポーツアニメ映画の金字塔『THE FIRST SLAM DUNK』、1987年公開の核爆弾が落とされる一軒家での老夫婦の会話劇を描いた『風が吹くとき』、1999年公開の人気テレビアニメの映画版『劇場版カードキャプターさくら』が短編『CLOVER』と併映で公開中。いずれも映画館という最良の環境で見られるこの機会を、ぜひ逃さないでもらいたいです。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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