9:『悪の教典』(2012年)伊藤英明
貴志祐介の小説の映画化作品で、「容姿端麗、頭脳明晰(めいせき)、人望も厚い人気教師が実はサイコパスで、つぎつぎと生徒と教師を惨殺していく」というインモラルな内容です。殺人への罪悪感がないどころか、ただ「邪魔だから殺す」という、徹底的に感情移入を拒む主人公には身震いするほどの恐ろしさがありました。その異常性は決定的な事件が起こる前でも乗っているボロボロの車や住まいで十分に分かりますし、「何かがおかしい」狂気的な言動がじわじわと見えてきて、最終的に笑顔で生徒を殺戮していく様はトラウマ級。R15+指定でもギリギリと思える暴力描写と性描写、悪趣味上等な要素の数々は間違いなく見る人を選びますが、「大規模公開の日本映画でここまでやり切った」インパクトは絶大です。
10:『十三人の刺客』(2010年)稲垣吾郎
1963年の同名映画のリメイクであり、13人の刺客が団結し血みどろの戦いへと赴くバイオレンス時代劇です。何より恐ろしいのは稲垣吾郎演じる暴君で、平然とした表情のまま悪行の限りを尽くす様がこれでもかと描かれるからこそ、「絶対に抹殺しなければならない」理由に説得力が生まれています。その稲垣吾郎は狂気に満ちているだけでなく、侍の欺瞞(ぎまん)を示すような知的な面も見せる様もあり、客観的には「悪」そのものなのに、魅力的にも見える様もまた怖かったりします。前述した『怪物の木こり』と『悪の教典』と同じく監督は三池崇史であり、三池崇史監督作品のサイコパスのキャラクターは「間違いない」といえるでしょう。現在は配信サービスで提供されていないのが惜しいところです。
ほかにもサイコパス役がすごい映画はたくさんある!
もちろん、サイコパスが描かれた映画はまだまだたくさんあります。日本映画では、『首』(2023年)の加瀬亮、『この子は邪悪』(2022年)の玉木宏、『死刑にいたる病』(2022年)の阿部サダヲ、『ヘルドッグス』(2022年)の坂口健太郎、『サイバー・ミッション』(2019年)の山下智久、『空母いぶき』(2019年)の西島秀俊、『ザ・ファブル』(2019年)の福士蒼汰、『キングダム』(2019年)の坂口拓、『不能犯』(2018年)の松坂桃李、『寄生獣』(2014年)の東出昌大、『凶悪』(2013年)のピエール瀧、『藁の楯』(2013年)の藤原竜也、『冷たい熱帯魚』(2010年)のでんでん、『重力ピエロ』(2009年)の渡部篤郎も強く印象に残る、恐ろしいサイコパス役を見事に演じていました。
海外映画では、『テッド・バンディ』(2019年)のザック・エフロン、『少年は残酷な弓を射る』(2011年)のエズラ・ミラー、『コラテラル』(2004年)のトム・クルーズ、『羊たちの沈黙』(1991年)のアンソニー・ホプキンスなどが、その代表でしょうか。
いずれもカリスマ性のある俳優だからこそ、サイコパスの恐ろしさがよりギャップとなり際立っているともいえるでしょう。そのサイコパスの魅力を、まずは『怪物の木こり』の亀梨和也から知ってほしいです。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。