ヒナタカの雑食系映画論 第40回

なぜ映画には「後味の悪さ」が必要なのか。重いテーマでも「後味の悪さ」にこそ意義がある日本映画10選

後味の悪い映画には「そうする」だけの理由がある。そう心から思えると同時に、映画として抜群に面白く、後味の悪さだけを取り上げるのももったいない、そして絶対に忘れられない日本映画を10作品に絞って紹介しましょう。※サムネイル画像出典:(C)2023「月」製作委員会

(C)2023「月」製作委員会
(C)2023「月」製作委員会
「後味の悪い映画」と聞くと身構えたり、そんな気分にはなりたくない……と思ったりする人もいるでしょう。しかし、後述するように、後味の悪い映画には「そうする」だけの理由があります。後味の悪さこそが作品の主題と密接にリンクしていることも、よくあることだと思うのです。

後味の悪い映画の有名作には『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『セブン』『レクイエム・フォー・ドリーム』『ファニーゲーム』『ミスト』『オールド・ボーイ』などがあります。

ここでは「日本映画」に限定し、後味の悪さだけを取り上げるだけではもったいない、作品として抜群に面白い、そして個人的に絶対に忘れられない、おすすめの映画を10作品に絞って紹介します。

舞台が身近だからこそ、日本人である我々が後味の悪さを「当事者」の気分になって体感でき、劇中で提示される問題をより切実に感じられるでしょう。中には刺激の強い作品もありますので、ぜひ覚悟の上でご覧になってほしいです。

1:『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)


「鬱になる映画」「賛否両論の映画」の代名詞のように呼ばれてきた作品で、表面的には中学生たちのいじめ、援助交際など、過激な要素がどうしても目につきますが、ただ露悪的に残酷な要素を並べ立てているわけではありません。美しい映像と対比するように思春期のあの頃の「痛み」が突き刺さる、強烈な体験ができることでしょう。

劇中で流れる架空のシンガーソングライター「リリイ・シュシュ」の音楽は、過酷な現実で生きる少年少女たちにとっての“支え”、またはそれ以上の存在になっていると思わせます。創作物に救われた経験がある人であれば、主人公の心情がより理解できるのではないでしょうか。本作と同じく、岩井俊二が監督を、小林武史が音楽を手掛けた最新作『キリエのうた』は、2023年10月13日に公開となります。

2:『凶悪』(2013年)


1999年に実際に起きた殺人事件のノンフィクション小説を原作とした映画であり、凶悪な殺人鬼の悪しき所業の数々を見せ続けながらも、彼らが「普通の人」として生活していることにも戦慄する内容です。R15+指定されたことも納得せざるを得ない、直接的な性描写と暴力シーンがあるので、ある程度は見る人も選ぶでしょう。

良い意味で意地が悪いのは「この映画を見て“面白い”と思っているあなたも危ないかもしれない」「安全圏にいるつもりのあなたも、実はそうじゃないかもしれない」と揺さぶってくること。善人であるはずのジャーナリストの主人公、その母の介護に苦しめられている妻、そしてこの映画を見ている観客にとっても他人事ではないのです。

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