ヒナタカの雑食系映画論 第40回

なぜ映画には「後味の悪さ」が必要なのか。重いテーマでも「後味の悪さ」にこそ意義がある日本映画10選

後味の悪い映画には「そうする」だけの理由がある。そう心から思えると同時に、映画として抜群に面白く、後味の悪さだけを取り上げるのももったいない、そして絶対に忘れられない日本映画を10作品に絞って紹介しましょう。※サムネイル画像出典:(C)2023「月」製作委員会

3:『葛城事件』(2016年)


無差別殺人事件を起こした青年とその家族、さらにはその青年と獄中結婚したいと願う女性が現れる状況からもうゲッソリできる、「家族という地獄」というキャッチコピーが伊達ではない、最初から最後まで意図的な不快感に満ち満ちている、見た後は体調を崩しかねない凶悪な映画です(全て褒めています)。物語はフィクションではありますが、秋葉原通り魔事件や「黒子のバスケ」脅迫事件など、複数の事件を参考にしています。

さらに辛いのは、家族の中で「これくらいならいいだろう」と見過ごしてきた「よくないこと」の積み重ねで「悪循環」が起こっていたこと。「間違え続けると、あなたの家族もこうなっていたかもしれない」と警告されているかのようでした。「見続けるしかない」映画の特性を生かしたラストシーンはもう最悪です(褒めてます)。PG12指定ではやや甘いと思える殺傷のシーンもあるのでご注意を。

4:『淵に立つ』(2016年)


小さな金属加工工場を営む夫婦とその娘のもとに、最近まで服役していた知人が訪ねてきたことから始まるミステリードラマです。主要登場人物はわずか5人。舞台もどこにでもありそうな片田舎であり、ともすると地味な内容になりそうなところを、時折見える不穏さや、徐々に明かされる夫婦の秘密が明らかになっていくことで、グイグイと引き込まれる面白さがありました。

『淵に立つ』というタイトルは、「崖の淵に立ち、人間の心の奥底の暗闇をじっと凝視するような作品になって欲しい」という深田晃司監督の願いからつけられたものだそう。「心の闇を見ようとすることで、分かることもある」ことを思い知らされます。脚本が細部まで周到に計算されていることは、あのラストできっと分かるはずです。


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