ヒナタカの雑食系映画論 第40回

なぜ映画には「後味の悪さ」が必要なのか。重いテーマでも「後味の悪さ」にこそ意義がある日本映画10選

後味の悪い映画には「そうする」だけの理由がある。そう心から思えると同時に、映画として抜群に面白く、後味の悪さだけを取り上げるのももったいない、そして絶対に忘れられない日本映画を10作品に絞って紹介しましょう。※サムネイル画像出典:(C)2023「月」製作委員会

5:『愚行録』(2017年)


直木賞の候補になった貫井徳郎の小説の映画化作品で、エリートサラリーマン一家の殺人事件から、過去の「愚行」が次々と明かされるというミステリーです。「要領の良い人間」が他人を平気でさげすむイヤな面をこれでもかと描き、そうではない人間が利用され搾取の限りを尽くされる様がキツくて仕方がなく、後味が悪いどころじゃなく最初から最後まで何1つとして良いことが起こらない映画です。

オープニングのバスのシーンで物語の本質が凝縮されているので、ぜひ覚えておくことをおすすめします。本作に限らず後味の悪い映画は「こうならないように気をつけよう」と学びが得られるものですが、本作はこれから大学生になる人こそ見て、危険な人物や関係性に巻き込まれないようにするための心構えにしてほしいと願います。

6:『許された子どもたち』(2020年)


中学1年生の少年が同級生へのいじめをエスカレートさせた結果、殺害してしまうことから始まり、その後は少年の日常が生き地獄そのものと化す様を容赦なく描く内容です。「あなたの子どもが人を殺したらどうしますか?」のキャッチコピー通り、思春期の子どもを持つ親御さんにとっては最恐のホラーとしても映るでしょう。

さらには誰もが「加害者になり得る」恐怖も劇中で描かれています。ネットで誹謗中傷を浴びせる者たちや、息子のいじめによる殺人の罪を隠そうとしていた母親もまた加害者といえますし、そうならないためにできることはあると、反面教師的に気付かされるかもしれません。こちらも物語はフィクションですが、山形マット死事件や川崎市中1男子生徒殺害事件など複数の実際の事件を参照しています。


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