ヒナタカの雑食系映画論 第38回

この秋は「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」が大充実! 残酷描写があっても大人気の理由とは

「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」というジャンルをご存じでしょうか。実はこの2023年秋、劇場公開されているその手の映画が大充実しているのです。一挙に4作品紹介しましょう。(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

コカインベア
『コカイン・ベア』(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS
この2023年秋に劇場公開されるバイオレンスアクション映画、特に「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」が充実していることをご存じでしょうか。

これは映画ライターのギンティ小林さんが命名した、後述する理由で「ざまあ!」とスカッと爽やかな快感が得られるジャンル。シンプルで分かりやすい面白さがあるうえに、ここで紹介する4作品がそれぞれに違った魅力があることも推したいのです。なお、いずれもR15+指定ならではの残酷描写もあるのでご注意を!

1:『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(9月22日より公開中)


キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋に扮(ふん)するアクション映画『ジョン・ウィック』シリーズの第4弾。今回から登場するメインキャラクターが多く、物語はキリの良いところでまとまっているので、初めてシリーズを見る人でも問題なく楽しめるでしょう。2分で分かる「振り返り映像」も公開されています。
 

話題になっているのは上映時間。なんと169分とほぼ3時間! 最初から最後までずっと戦っているといっても過言ではなく、はっきりいって見ていて疲れてくるのですが、それこそが「殺しの連鎖から逃れられない」主人公の疲労感や悲哀とシンクロしています。良い意味での「アクションの過剰摂取」のような、かつてない映画体験ができる内容でした。

アクションそれぞれがバラエティ豊かで、「こんなの見たことない!」ケレン味のある演出も満載。果てはコントのようなシチュエーションもあり、特に終盤の「階段」でのバトルに大笑いしてしまう人は多いことでしょう。日本人である真田広之やリナ・サワヤマの活躍もうれしく、香港のアクション俳優ドニー・イェンがもう1人の主人公といってもいいほどの存在になっているのもたまりません。

1作目では「かわいい犬を殺されたのでマフィアを皆殺し」という、ものすごく納得できる理由がある正統派の「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」でしたが、今回はアクションがインフレしまくったおかげで「殺し屋大乱闘無限地獄」的な別ジャンルへと変わっているような気がしなくもないです。それでも、伝説の殺し屋をナメて向かってくる敵たちを次々に「無双」していく様は爽快に感じられる(でもやっぱり良い意味で疲れる)ことでしょう。それも含めて、アクション映画の到達点といえる傑作です。

2:『コカイン・ベア』(9月29日より公開中)


こちらはなんと実話がベース。そして「ハイになったクマが次々に人間を襲っていく」という由緒正しきモンスターパニックものです。現実ではコカインを摂取したクマはただ死んでしまったそうですが、この映画ではクマを気持ちよくハイにさせて好きなだけ暴れさせるという、「もしも」をフィクション部分でかなえてあげたような、作り手の優しさにあふれた(?)内容なのです。

面白いのは、「コカインの袋を投げたりぶちまけたりして、それをクマが食べている隙に逃げる」といった、すっかりコカイン中毒になったクマとの「知恵」も交えた攻防戦。さまざまなアイデアが詰め込まれているので飽きさせませんし、麻薬王一味、子ども2人と母親、警察、レンジャーと分かりやすく色分けされた人間チームのドラマもなかなか作り込まれていて、思いがけないホロリとくるドラマも用意されていました。

登場人物のほとんどはクマをナメてなどいない、むしろコカインおよびクマの危険性が分かっているからこそクマを警戒して、それでも容赦なく蹂躙(じゅうりん)されたりもするのですが……1人だけナメきっている人物がいます。それはコカインを流布する側である、元凶ともいえる「麻薬王」。分かりやすい悪党の彼に、まさに「ざまあ!」なスカッと爽やかなしっぺ返しが待っていることを期待して見るのがいいでしょう。そうした事象を通して、実はクスリ、ダメ絶対! を反面教師的に学べる内容でもありました。


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