ヒナタカの雑食系映画論 第38回

この秋は「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」が大充実! 残酷描写があっても大人気の理由とは

「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」というジャンルをご存じでしょうか。実はこの2023年秋、劇場公開されているその手の映画が大充実しているのです。一挙に4作品紹介しましょう。(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

3:『イコライザー THE FINAL』(10月6日公開)


デンゼル・ワシントンが闇の仕事請負人を演じる『イコライザー』の第3弾。前2作では「悪を完全抹消するまで」の時間は19秒でしたが、今回は9秒と大幅短縮。その時短テクニックに沿うかのように上映時間も109分と前2作よりコンパクトで、どんどん上映時間が長くなっていった『ジョン・ウィック』シリーズとは好対照です。こちらも内容はシンプルなので、シリーズ初見でも楽しめるでしょう。

さらに特徴的なのはシリーズ最高のバイオレンスと、もはやホラーかと思うほどの主人公のたたずまいおよび「脅し方」。登場する悪党は、警察でも止められない暴虐の限りを尽くしていて、同情の余地などないはずなのに、それでも主人公からの「やられ方」が徹底的すぎて気の毒に思ってしまうほど。演出としても、主人公が完全に人ならざる怪物のように描かれる場面もあり、もはや変な笑いすら出てくる勢いでした。

主人公は神経症的かつ繊細で、もはや「死に場所を探している」ようにすら思えるから心配にもなりますし、町の人たちと交流して朗らかな笑顔を浮かべる様からは「本当に良い人なんだろうなあ」と思えるからこそ、許されざる悪党を容赦なく殺す様が良い意味でギャップとなっています。『マイ・ボディガード』の時にはわずか10歳だったダコタ・ファニングが18年ぶりにデンゼル・ワシントンと共演しており、大人の女性として対等な関係性を築いていくことにも注目です。

4:『SISU/シス 不死身の男』(10月27日公開)


こちらはフィンランド製。主人公はツルハシを持ち、愛犬と共に旅をする老兵。敵はナチスかつ金塊を強奪する悪党で、完全にナメきって調子に乗っていたらあっけなく殺されまくって、きちんと「ヤバいやつに手を出してしまった」と気付かされるという、「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」に全力投球した仕上がりになっていました。

この手の映画は少なからずブラックコメディ的な側面を持っているものですが、本作の「笑ってしまう」度はトップクラス。主人公がぱっと見は本当に弱そうで、戦車や狙撃銃相手にギリギリで逃げ惑う様が連続する一方、敵が短絡的な行動をしまくって次々に返り討ちになる様はもはや「悪い冗談」のよう。劇場で見てこそ、不謹慎な笑いに包まれる楽しさを味わえることでしょう。「章立て」の構成にもなっていて、特に「第6章」のタイトルに爆笑する人も多いはずです(筆者がそうです)。

上映時間が91分とタイトで、極力無駄を削ぎ落とした内容だからこそ、むしろ登場人物のバックグラウンドに想像力をかき立てられます。なお、タイトルの“SISU”は翻訳不可能とされるフィンランドの古き良き精神のことで、あえていうならば「想像を絶するほどの意志の強さ」「何があっても折れない心」なのだとか。それを含めた最終的な「強さの理由」は映画『プリキュアオールスターズF』にも通じていて感動しました。

>次のページ:ほかにもまだある「ナメてた相手が実は殺人マシンでした」映画!
 
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