ヒナタカの雑食系映画論 第37回

スタジオジブリ子会社化で「大きく変わるかもしれない」2つの方向性。配信やテレビシリーズの可能性は?

日本テレビがスタジオジブリの子会社化を発表しました。会見で特に切実に語られていたのは「後継者問題」。それに付随した、子会社化により大きく変わることが予想される、2つの方向性についてまとめてみましょう。(c) 2023 Studio Ghibli

スタジオジブリ
『君たちはどう生きるか』(c) 2023 Studio Ghibli
9月21日、日本テレビ放送網(日本テレビ)が、スタジオジブリの子会社化を発表しました。ジブリの次期社長に就任するのは日本テレビの福田博之氏。10月6日に契約締結、株式譲渡となります。

もともとジブリと日本テレビには深いつながりがあり、今回の子会社化に納得できるという声は少なくありません。ジブリ作品が「金曜ロードショー」(日本テレビ)で放送され続けていたことは言うまでもなく、1989年公開の『魔女の宅急便』からは日本テレビが映画製作に出資していますし、2001年開館の「三鷹の森ジブリ美術館」の設立も支援しています。この2023年には「金曜ロードショーとジブリ展」も開催されていました。

では、実際にジブリの子会社化でどのような影響があるのでしょうか? まだまだ未決定のことが多いのですが、それでも主に「2つ」のことが大きく変わることが推測されます。それぞれをまとめてみましょう。

1:「配信」はあり得る? 配信サービスはHuluかDisney+に?

特に議論を呼んでいるのが、ジブリ作品が配信サービスで提供されるか否かです。中でも提供される可能性が高いとうわさされているのは、日本テレビが2014年2月に日本事業を買収した「Hulu」。ジブリ作品が独占で配信されれば、視聴者獲得のための大きな強みになることは間違いありません。

ほかにも、「Disney+(ディズニープラス)」での配信の可能性もあります。『スター・ウォーズ』のスピンオフドラマ『マンダロリアン』のキャラクター・グローグーと、『となりのトトロ』のマックロクロスケが共演した短編アニメ『禅 グローグーとマックロクロスケ』が2022年11月より配信されていたからです。
 
2023年7月よりHuluとDisney+のセット料金のプランが誕生していたりもするので、この2つの配信サービスのみで提供ということもあり得るでしょう。
 

はたまた、今後も配信サービスでの提供なしが続くこともあり得ます。金曜ロードショーで放送のジブリ作品が高視聴率を保ち続けているのは、「配信では見られない」という理由も少なからず影響していると思えるからです。金曜ロードショーは近年では「同じジブリ作品は少なくとも2年間は放送しない」という縛りを設けているようで、ジブリ作品が飽きられることなく、長期的に愛されるように調整している印象もあります。

なお、福田次期社長はHuluでのジブリ作品配信の可能性について「今のところ現状と何も変わっておらず、何かあればこれから考えたい」と言及しています。ジブリ作品が配信されるとしても、まだまだ時間はかかりそうです。

なお、Netflixでは2020年2月より、日本・アメリカ・カナダを除く世界約190カ国でジブリ作品の主要21作品が配信済みです。このニュースでは「作品を制作した日本で見られないこと」に不満の声が続出していたので、やはり今後は配信サービスの提供がポジティブな話題になることを期待しています。

2:テレビシリーズ制作の可能性も。それでこそ後継者を育てられる?

鈴木敏夫氏は会見で「ジブリは世界でも珍しい、映画しか作らない会社だが、そういった考え方を誰かがどこかで変えてほしい」「若い人材が育つために必要なのはテレビシリーズ」「テレビシリーズで若い人たちに機会を与えて秀作を作ってもらう」と語りました。ジブリによる、テレビシリーズ制作の可能性が示唆されたのです。

ジブリ創立以前に宮崎駿監督がテレビシリーズ『未来少年コナン』(NHK)を、高畑勲監督が『アルプスの少女ハイジ』『赤毛のアン』(フジテレビ系)というテレビシリーズを手掛けてきたことは言うまでもありません。その時の経験と技術がジブリの映画作品に注ぎ込まれ、愛される作品が生まれ続けたからこそ、鈴木氏はまさにそこに期待しているのでしょう。

今後はジブリという強力なブランドも加味したテレビシリーズが若い人材により作られ、その監督やスタッフがジブリの後継者たり得る人材へと成長することが期待されているのです。

今回の会見では後継者の問題が特に切実に語られており、鈴木氏は「ことごとく(後継者探しが)失敗に終わった。宮崎に続く有望な監督を見つける、育成するその困難さを知った」とまで言及していました。

しかも、公開中の宮崎駿監督による映画『君たちはどう生きるか』の劇中では、まさに「ジブリの後継者を探す」困難さを示したようなメタフィクション的な描写があり、この現実の切実さを裏付けるようでもあったのです。

さらに、鈴木氏が「宮崎が82歳、僕が75歳。お分かりの通り後期高齢者」「一種の老害、そういうことも考えなきゃいけない年齢になった」と、半ば自虐的に語る場面もありました。後継者問題と直結する自身たちの年齢も、この子会社化を決断する大きなきっかけになったのは間違いないでしょう。


>次のページ:子会社化によって、むしろ作品が作りやすくなる?
 
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