ジブリというブランドを信じているからこその「変わらない」期待
そんなわけで、「配信サービスでの提供」「テレビシリーズの制作」という、今までのジブリとは違う2つの方向性の可能性が高くはなったものの、個人的には「それ以外はあまり変わらない」「むしろ作品を安心して作りやすくなる」という印象も持ちました。その大きな理由が、息子の宮崎吾朗氏といった個人に経営を任せることをせず、日本テレビという企業の大きな会社の力を借りてこそ、社員が安心して働けると語られていることです。やはり長いスパンを見据えた「後継者探し」こそが今後のジブリの課題になっているのだとうかがえますし、磐石の体制を敷いてこそ作品のクオリティも保てるのだと期待ができます。
ジブリの公式Webサイトでも、鈴木氏からの「経営を日本テレビで手伝ってもらえないか」という申し入れに対して、日本テレビの代表取締役会長執行役員の杉山美邦氏が「今後ともジブリ作品を応援し、ジブリが映画を作り続けられる環境を守ることになるならば」と前向きに検討することを約束した、とつづられています。
福田次期社長も「(ジブリ作品は)時代を確かにとらえて人々を魅了する普遍性があると思いますので、その素晴らしい世界観をいかにして守っていくかが使命だと認識していますし、今後もジブリが自主性をもってものづくりに取り組める環境をつくることは必ずやらなければいけない仕事だと思っております」と語っていました。
今回の子会社で懸念されるのは、外部からの要望や圧力により、クリエイターの望んだ通りの作品が作られにくくなったり、作品の性質が変わってしまったりすることです。しかし、これらの「環境を守る」「世界観をいかにして守っていくかが使命」といった言葉から、日本テレビ側は余計なことはしない、ジブリというブランドおよび作品に絶大な信頼を置いている印象が強くあります。ひとまず、そのことをジブリのファンとしても信じて、今後の展開に期待したいのです。
「安心できる環境」で、宮崎駿監督の次回作も期待できる?
2023年9月のトロント国際映画祭で『君たちはどう生きるか』がオープニング作品として上映された際、ジブリの広報・学芸担当スーパーバイザーの西岡純一氏が「宮崎監督の最後の作品と言われているようですけれど、監督は全くそのようには思っていない」「新しい作品のための構想を練っているところ」などと語ったことが話題になりました。鈴木氏も今回の子会社化の会見で、宮崎駿監督の今後の企画案やほのめかしを聞かれて「本当はあるんですけど内緒」「そばにいて(分かるのは)、やれるものなら死ぬまでやりたい、命のある限り、だと思います」と語っていたことからも、宮崎駿監督の次回作が期待できるのです。
また、宮崎駿監督作『君たちはどう生きるか』は「宣伝をいっさいしない宣伝」が話題になり、それは映画史上でも珍しい「大博打」と呼べるようなものでした。今回の会見でも鈴木氏は「宮崎がかつてないほど興行成績をものすごく気にしている」「もし、支持してくれる人がいるのなら、企画までは考えていいかなとか、非常に謙虚に言っている」とも答えています。
『君たちはどう生きるか』は「ちゃんと採算は取れました」ということで一安心ですが、宮崎駿監督にとっても、日本テレビによるジブリの子会社化という、ギャンブルのような宣伝とは真逆の「安心できる」環境は望んでいたことなのかもしれません。
さらに、ジブリで制作したテレビシリーズが日本テレビで放送され高視聴率を記録すること、その若手監督の技術はもちろん知名度の向上、さらに新しい世代のジブリの映画が今後も作り続けられることも大いに期待できます。
先ほどはジブリ作品が「配信では見られない」ことも金曜ロードショーでの高視聴率にもつながっているのかもしれないと書きましたが、配信サービスでの提供があってこそ、さらに幅広く末長く作品に触れられる機会にもなり得るでしょう。
そのように考えればプラスの側面のほうが、今回の子会社化には多く見受けられます。ジブリのファンとしては純粋に、新しい、面白い作品が今後も見られるということに、大きな期待を寄せています。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の魅力だけでなく、映画興行全体の傾向や宣伝手法の分析など、多角的な視点から映画について考察する。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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