ヒナタカの雑食系映画論 第40回

なぜ映画には「後味の悪さ」が必要なのか。重いテーマでも「後味の悪さ」にこそ意義がある日本映画10選

後味の悪い映画には「そうする」だけの理由がある。そう心から思えると同時に、映画として抜群に面白く、後味の悪さだけを取り上げるのももったいない、そして絶対に忘れられない日本映画を10作品に絞って紹介しましょう。※サムネイル画像出典:(C)2023「月」製作委員会

7:『哀愁しんでれら』(2021年)


不幸のどん底まで落ちた女性が「王子様」のような男性からプロポーズされる『シンデレラ』のようなサクセスストーリー……に見せかけたホラーサスペンス(ある意味でブラックコメディー)です。結婚相手が「実はドス黒い考えに染まっている」ことが徐々に分かっていき、あらゆる事態が最悪の方向へと向かっていく様がとても気持ち悪く、全編で居心地は最悪です(褒めています)。

その『シンデレラ』をモチーフにしたことが「今の世の中、お金持ちの男性と結婚して、その庇護のもとで生きていくって、それって本当にいいことなの?」という普遍的な問いかけにもなっています。リアリティーを度外視した、ほとんど「ぶっ飛んでいる」とさえいえるラストも含め賛否両論まっぷたつの評価にも納得ですが、だからこその「今まで見たことないものが見られる」インパクトがあります。

8:『この子は邪悪』(2022年)


『世にも奇妙な物語』的な不可思議な物語が好きな人におすすめなのがこちら。凄惨な事故が起きた5年後、昏睡状態だったはずの母が突然家に帰ってくるが、長女は「お母さんじゃない」と思うという導入部からゾクゾクしますし、その後も全編で不穏な空気がずっと漂ってからの、見事に伏線を回収したクライマックスおよびラストにとてつもない衝撃がありました。

現実ではありえない出来事を描いているからこそ、それが「できてしまう」としたら、人間の狂気は、どこまでも暴走してしまうのかもしれないという教訓も得られるでしょう。また、「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM FILM」という映画企画とクリエイターの発掘プログラムにて、2017年の準グランプリを受賞した企画の映像化であり、実力と熱意のあるクリエイターの作品を、万全のバックアップをもって世に送り出す試みも応援したくなります。


>次のページ:最新映画2作品も! 映画に「後味の悪さ」が必要な理由
 
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