世界を知れば日本が見える 第34回

日本にも飛び火、イスラエルとハマスの「サイバー攻撃合戦」で何が起きているのか

イスラエルとハマスの紛争は、サイバー空間にも拡大している。あまり知られていないが、日本も攻撃対象になっている。具体的にどのような手口なのだろうか。

日本で起きた被害は

イスラム教国であるパキスタンに拠点を置くハッカーグループ「Pakistan Leet Hackers」は、日本政府がイスラエル寄りの姿勢であるとして、日本に対してDDoS攻撃を行っている。

この集団によれば、鴻池組の公式サイトや茂木敏充幹事長の公式サイト、菅義偉・元首相の公式サイトに加えて、経団連、自民党、日本原子力学会、Yahoo! JAPANなど、各サイトにもDDoS攻撃を行ったと主張している。もっとも、ほぼ被害は出ておらず、攻撃されたことに気づいていない企業もあるようだ。

さらに同集団はX(旧Twitter)に「日本のサイバーセキュリティシステムは、イスラエル政府によって作成されたシステムだ」と投稿し、それを理由に日本を攻撃すると主張した。

もちろん主張のような事実はないため、筆者はこの集団に直接、「イスラエル政府によって作成されたシステムって、どういう意味? 誰から聞いたのか?」と質問してみた。すると、「私には深い情報が入る」と返信をしてきたが、それ以上の説明はしてこない。その後もやりとりをしたが、結局は、根拠のない話を持ち出してきて、サイバー攻撃を仕掛けていることが明らかだった。

またブラジルが拠点の「Arabian Cyber Team」というハクティビスト組織も、なぜか日本の海外電力調査会(JEPIC)という海外の電力事情を調査する機関にDDoS攻撃を仕掛けて「成功した」と、Xで投稿している。ここでも筆者は、「JEPICは親イスラエルの組織なのか?」と、このグループに直接、質問をしてみたが、回答はなく直後に筆者のXアカウントをブロックした。

DDoS攻撃は犯罪行為

忘れてはいけないのは、こうしたDDoS攻撃などは犯罪行為だということだ。そもそも、ハクティビスト集団にとって、紛争の真実はもはや関係ない。筆者がこうしたハクティビストにXなどで「日本政府はガザに15億円の緊急支援金を決めている」などと伝えても、ハクティビストという名のサイバー犯罪集団には響かないし、攻撃は継続されるだろう。ちなみに日本政府は、15億円に加えて、ガザに100億円の追加支援も発表している。

今後、紛争が長引くにつれ、サイバー空間での活動も巧妙化していくだろう。そして国境もないサイバー領域では、日本も攻撃対象になる。決して他人事ではないことを忘れてはいけない。
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この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
 
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