前回の記事に続いて、今回もオルタナティブスクールを取り上げます。
今回訪問したのは、東京都中野区にある「東京コミュニティスクール」(以下、TCS)。一般的な公立や私立の学校とは異なる新たな選択肢の学校を指すオルタナティブスクールとしては老舗で、来年(2024年)で開校20年になります。
まだ探究なんていう言葉がなかった頃から、探求的な学び方を取り入れてきたスクールで、神戸にあるラーンネット・グローバルスクールと共に、日本発のオルタナティブスクールの草分けと言ってもいいでしょう。
今回は、TCSの教育について、理事長の堀江由香里さんにお話を伺いました。
チャイムが鳴らないのに自主的に動く子どもたち
TCSは、中野駅南口から徒歩9分の場所にある3階建てのビルの中にあります。1学年の定員が9人で、全校でも最大で54名のマイクロスクールなので、スペースとしては、結構ゆったりしている印象です。校庭はありませんが、都会の大きな駅の近くという立地にしては珍しく、近所に公園や図書館、大きなスポーツ施設があり、それらの施設を活用して教育を行っています。立地も含めて、子どもたちが学ぶ場としても恵まれている印象です。
私が訪れた時は、ちょうどアセンブリという集会の時間。玄関を入ってすぐのフロアでは、異学年の子どもたちが集まって、10月に行われるフェスティバルの出し物について話し合っているようでした。
進行役は6年生の児童。通常の学校の先生にあたる人の姿は見えず、子どもたちだけで、何をするか、そのための条件や課題を洗い出し、どうすれば実現するかを真剣に話し合っている様子が印象的でした。
2階に上がると、仕切りのない広いワンフロアのスペースと小さな教室が1つだけ。この日は、午後がテーマ学習の時間でしたが、チャイムは鳴りませんし、大人からの呼びかけもありません。でも、子どもたちは、時計を見ながら、アセンブリという時間を切り上げて、それぞれの場所に移動して準備をし、授業が始まりました。
「新たな知」を生成する6つの探究領域に基づくテーマ学習
この日に行われていたのが、時空因縁、万象究理、自主自律、社会寄与という、耳慣れない四字熟語の探究領域に基づくテーマ学習です。1年生は、時空因縁という探究領域で、スクール周辺の地図を作りに外に出かけていきます。
2年生も外に出かけて行ったと思ったら、しばらくすると植物を手にして戻ってきて、それぞれが採集してきた植物の模写をしながら、気付いたことを話し合っている様子。これは、万象究理の探究領域。
1階では、ノコギリが並べられ、3年生が板を切っています。これからこの板を使って、椅子を作るのだそうです。板は結構分厚くて、真っすぐに切るのはなかなか簡単ではありませんが、子どもたちは協力し合いながら、切り落としていました。
4年生がやっていたのは、時空因縁の探究領域の中の「日本フード記」というテーマ学習で、昨日の夕食や今日の朝食で何を食べたかを報告し合い、それらの食物はどこから来るのか、日本の風土、食料問題に至るまで、さまざまなことを調べたり、話し合ったりしていました。
3階に上がると、5・6年生が、「人類誕生の歴史を探る」をトピックに、グループに分かれて話し合っていました。
壁には、「自主自律」 「似て非なるもの」(今週のテーマタイトル)、セントラルアイデア「私たちは軌跡と奇跡で生かされている。」という言葉が書かれた紙が貼られています。この時間は、私たちはどこから来たのか、その軌跡を探りに、博物館に出かける準備をしているようでした。
それぞれの授業を回しているのは、“スタッフ”と呼ばれる大人たち。あだ名で呼ばれています。
スタッフの背景も、4年間バックパッカーで世界を回った後スタッフになった人、元プロ野球の選手や青年海外協力隊員など多様です。このスクールでは、先生と生徒という上下関係はなく、フラットで、でも馴れ合うのでもなく、互いを尊重し合う仲間のような空気感が漂っていました。
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