中小企業の賃上げは「%」で語っても意味がない
そもそも、賃上げしたけれど社員が辞めたというエピソードの多くはあてにならない。中小企業の賃上げは「%」で語っても意味がないからだ。
日本の中小企業、特にサービス業は圧倒的に低賃金労働が多い。ベースが同業他社に比べて常軌を逸した低賃金なのに、10%アップしたところで従業員の離職を食い止めることにはならない。
例えば、月給が20万円の中小企業があったとしよう。人材確保のために10%の賃上げをして22万円にした。経営者からしてみれば、これだけ大幅な賃上げは今までやったことがないと胸を張るだろうが、ではこれに「離職を防ぐ効果」があるだろうか。
かなり難しいだろう。同じ規模の企業が給料25万を払っていたら従業員は簡単に離職をしてしまう。経営者は自分の会社が全てだと思っているので、自社の給与水準をベースに10%だ、20%だと騒ぐが、本当にベースにしなくてはいけないのは、自社のいる業界の平均的な給与、競合企業の給与水準なのだ。
時代錯誤な精神論が「安いニッポン」を生んでいる
世界では企業が成長を目指すために優秀な人材を確保しようと思うと、真っ先に「賃上げ」をする。しかし、日本では戦後に終身雇用や年功序列という独特な労働文化が浸透したことで、「賃上げ」を「悪」ととらえる風習が生まれてしまった。特にそれがひどいのが、中小企業だ。
給料というのは、経営者が社員の働きぶりや会社の成長を見て自然に上げてくれる。だから、「よその会社よりも安い」とか「もっと給料を上げろ」と文句を言うのはカネに卑しい人か、「左翼運動家」という日本独特の「常識」が広まってしまったのだ。
そういう日本の同調圧力をこじらせた結果が、現在の30年も平均給与が上がらない「安いニッポン」だ。日本の中小企業は成長していくためにも、時代錯誤な精神論を捨てて、「賃上げこそが成長を生む」という現実と向き合うべきだ。
窪田 順生 プロフィール
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。