「賃上げだけでは優秀な人材を確保できない」は典型的な論点のすり替え
さて、このように企業の成長になくてはならない「賃上げ」の動きが進む一方で「賃上げ効果」に懐疑的な人々もいる。彼らは「賃上げだけでは優秀な人材を確保できない。その仕事の働きがいや、職場の環境整備などを整備して従業員満足度を上げていくべきだ」だと主張する。
その根拠となっているのが、中小企業経営者の間でよく言われる「賃上げが大切だというので頑張って10%の賃上げをしたが、優秀な社員が去ってしまった」という残念なエピソードだ。
“賃上げ効果懐疑派”の皆さんは、こういう事例もあるので、経営者は賃上げばかりをしてはダメなのであって、優秀な社員が喜んで働けるような「やりがい」を提供したり、人間関係や風通しのいい職場環境を大事だという結論に持っていく。
ただ、さまざまな中小企業を見てきた立場で言わせていただくと、これは典型的な論点のすり替えだ。
「賃上げをしない」ことを正当化するために、やりがいやチームワークという「精神論」を持ち出しているにすぎない。もちろん、人間なので働くうえでやりがいやチームワークは必要だが、その前にまずは労働の対価であり、その人の働きぶりを客観的に評価できる「賃金」をしっかりと上げないことには、働く人にとって意味がない。
人はお金のためだけに働いているわけではないが、ボランティアで働いているわけでもない。社会で生きていくためにはカネを稼がないといけないし、努力や才能を客観的に評価してもらうためにも「お金」は極めて重要なのだ。
そういう話を飛び越えて、精神論を振りかざす会社というのは、筆者のこれまでの経験ではいわゆる「やりがい搾取」をするブラック企業が圧倒的に多い。