映画ファンが落胆した「ノミネートなし」の作品も
反面、今回のアカデミー賞で残念だったことがあります。それは、『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』が1部門のノミネートもされなかったこと。同作は、世界中で「#MeToo運動」を起こすことにつながった、映画プロデューサー・ハーヴェイ・ワインスタインの性加害告発を題材にしています。過去に「有害な男性性」を描いた『プロミシング・ウーマン』は作品賞を含む5部門にノミネートされ脚本賞を受賞しましたし、2022年には日本でも数多くの有害な男性性を描いた映画が上映されました。
その潮流にある大本命であり、今後の映画界にも必ずつながるはずの『SHE SAID』がノミネートされなかったことに、多くの映画ファンが落胆しました。内容の意義や作品の完成度からすれば、作品賞はもちろん、原作本から映画への工夫という点で脚色賞もノミネートされるべきだったはずです。
悔しさはありますが、同様に女性への性加害の問題を描いた『ウーマン・トーキング 私たちの選択』は、作品賞と脚色賞にノミネートされています。日本で6月2日公開の同作には、受賞を期待したいところです。
『SHE SAID』に限らず、アカデミー賞のノミネートや発表を期に、「そうではなかった評価の高い映画」に目を向けてもいいかもしれません。映画ファンがノミネートされなかったことに落胆する作品というのは、他のノミネート作品よりも「価値がある」という証でもあります。
例えば、今回ノミネートされなかった『NOPE/ノープ』は、国内外でも絶大な支持を得ていました。
日本人でもアカデミー賞がさらに楽しめるようになったシンプルな理由
最後に、近年のアカデミー賞は、従来に比べ日本人でもより楽しめるようになった、と感じる理由を記しておきます。それは、シンプルに「ノミネート&受賞作が比較的すぐに観られるようになった」ということ!例えば、『エブエブ』はもちろん、7部門ノミネートの『フェイブルマンズ』は3月3日に劇場公開されたばかり。長編アニメ映画賞ノミネートの『長ぐつをはいたネコと9つの命』も3月17日に劇場公開となります。
配信ですぐに観られる作品も増えています。例えば、Netflixでは9部門にノミネートの『西部戦線異状なし』が配信中。他にも、長編アニメ映画賞ノミネートの『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』『ジェイコブと海の怪物』、脚色賞ノミネートの『ナイブズ・アウト グラス・オニオン』はNetflix配信作品で、他にもノミネート作の多くがNetflixで観られます。
Disney+で配信中の作品では、長編アニメ映画賞ノミネートの『私ときどきレッサーパンダ』、5部門ノミネートの『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』、長編ドキュメンタリー賞ノミネートの『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』、短編実写映画賞ノミネートの『無垢の瞳』があります。
Amazonプライムビデオでは国際長編映画賞ノミネートの『アルゼンチン1985 ~歴史を変えた裁判~』、AppleTV+では短編アニメ映画賞ノミネートの『ぼく モグラ キツネ 馬』、助演男優賞ノミネートの『その道の向こうに』が観られます。
さらに、作品賞をはじめ、6部門ノミネートの『トップガンマーヴェリック』もNetflixで配信中。かつ、現在は劇場で復活上映も行われていています。
少し前までは、アカデミー賞にノミネート&受賞をしていたとしても、日本ではすぐに観られない作品の方がはるかに多かったのですが、近年ではアカデミー賞に公開スケジュールを合わせた作品も増えた印象です。また、配信限定の作品も多くなったこともあり、日本でもアカデミー賞作品に触れやすくなっているのです。
アカデミー賞の受賞予想は、事前に行われる映画賞の結果などから、ある程度は判断がつくものです。しかし、言うまでもなく、作品を観ておくと、アカデミー賞はさらに面白くなります。個人的な作品への思い入れがあってこそ、授賞式まで「あの映画が受賞するはずだ!」「いやこっちかもしれない」と“迷う”楽しみが生まれますし、実際に予想した作品が受賞したときの喜びも、ひとしおなはず。
もちろん、受賞してから作品を観るのも楽しいですし、その方がスタンダードでしょう。そして、受賞作だけでなく、惜しくも受賞できなかったノミネート作品や、『SHE SAID』などノミネートされなくても評価の高い作品に目を向けてみるのも、きっと楽しいはずですよ。
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