王道娯楽作ともアート系ともちょっと異なる「攻めた」作品が多い?
ここから、かなり主観的な意見になりますが、今回のアカデミー賞受賞作の中には、一風変わった、というより「攻めた」作品が多い印象もあります。まず、大本命の『エブエブ』こそが、良い意味でめちゃくちゃヘンテコでカオスな映画。「国税局を舞台に、平凡な主婦がカンフーマスターとなってマルチバースの平和のため戦う」という、聞くだけで「なんだそりゃ!?」と思ってしまうあらすじなのですから。
王道の娯楽作とも、アカデミー賞が好むアート的な印象とも全く異なる『エブエブ』が、賞レースでここまでの強さを発揮するということは、異例と言っていいでしょう。
さらに、3部門ノミネートの『バビロン』は、R15+指定も納得の過激な内容です。特にギャグの極端さから、日本では「汚い『ラ・ラ・ランド』」「漫☆画太郎の撮った『ニュー・シネマ・パラダイス』」と(おおむね良い意味で)呼ばれたりもしています。公開から1カ月がたち、上映館が少なくなっていますが、まだ劇場での鑑賞は間に合います。
他にも、現在公開中の3部門ノミネートの『逆転のトライアングル』は船が転覆する過程で、クセの強い人物の醜い争いが勃発する、「汚い『タイタニック』」と呼ばれるほどのブラックコメディーでした。
とはいえ、『エブエブ』はヘンテコでカオスなだけでなく、とてつもない感動も待ち受けている志の高い作品。『バビロン』には、作曲賞、美術賞、衣裳デザイン賞ノミネートそれぞれに大納得のゴージャスさがあります。さらに『逆転のトライアングル』も作品賞、監督賞、脚本賞にノミネートされるほど、現代ならではの痛烈かつ切実な風刺に満ちた作品でした。
良い意味で、アカデミー賞の柔軟さ、自由さも感じさせる作品群です。
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