ヒナタカの雑食系映画論 第14回

映画作品は「ネタバレ前提」が主流の時代? “要約文化”が台頭する今だからこそ伝えたいネタバレ論

「ネタバレを踏んでしまった」ことはあるでしょうか。「内容を知っちゃったから、もう観なくて(読まなくて)いいや」があまりにもったいない、「たとえネタバレを踏んだとしても、全ての作品には、触れる価値が絶対にある」と断言できる理由を記します。


「ネタバレを踏んでしまった」ことはあるでしょうか。映画に限らず、ドラマや漫画や小説で、結末やどんでん返し、はたまたサプライズ要素を、作品に触れる前に知ってしまってガッカリしたことがある人は、決して少なくはないはず。SNSが台頭する時代だからこそ、よりネタバレを踏みやすくなったといえるでしょう。

しかし、「内容を知っちゃったから、もう観なくて(読まなくて)いいや」というのは、やはりもったいない。「たとえネタバレを踏んだとしても、作品に触れる価値は絶対にある」と断言します。筆者の主観となりますが、その理由を記しておきましょう。

 

映画の全てを“要約”するのは不可能。「ファスト映画問題」に思うこと

映像作品を前提にすれば「人から言葉で聞いたり、文字で知ったりした情報以上のものが、絶対にある」というシンプルな言い方ができます。作り手がこだわった画、編集や演出などの工夫、俳優や声優の演技で伝えられる感情、それらを完全に言語化するのは不可能なのですから。

映像作品でなくても、ネタバレ要素に至るまでには「過程」があります。なぜそういう展開になったのか、なぜ登場人物がそう考えたのか、そこにこそ「物語」の面白さがあるのです。そもそも、どんな創作物においても「重要なのはネタバレ要素だけ」「それを踏んだら全てが台無し」なんてことはあり得ないでしょう。

ダイジェスト的に要素を知ることは、作品にじっくり触れてこその「体験」には絶対になりません。少し前に映画の内容を短くまとめて動画にする「ファスト映画」が問題となり、逮捕者も出ましたが、全ての創作物には「要約」などでは語りきれないことこそに感動があります。ファスト映画で物語の流れや結末を知ったとしても、それでは作品から何も得ていない、触れてもいないことと大きな違いはないでしょう。

また、実話ものの映画では、実際の出来事の顛末(てんまつ)が事前に(あるいは劇中の序盤で)ネタバレされているともいえます。晩年のヒロインが過去を振り返る『タイタニック』はその代表。やはり「過程」をこそ楽しむ作品でしょう。
 

さらに余談ですが、「だまされる」ことを積極的に打ち出した映画『シャッター・アイランド』は、本編を観た人から「衝撃的な結末やどんでん返しを売りにする内容ではない」「そのせいで損をしている」などと、日本の宣伝が批判の対象になったこともあります。同作は、筆者も「過程」こそを楽しむ映画の代表として紹介したいほどです。

 

ネタバレを踏んでこその面白さもある

創作物、特におよそ2時間の時間をかけて観る映画は、往々にして限られた時間でロジカルに「計算」された作りになっています。そのため、映画をもう一度観ればこそ「なるほど、ここがこうなっているから、こうなるのか」などと、改めて「伏線」に気づくだけでなく、作品そのものの面白さに改めて気づくこともあります。

筆者自身も「1回目では気付けないことがあって、2回目のほうが楽しく観られた」映画は数えきれないほどありますし、子どもの頃にあまり楽しめなかった映画を大人になって再鑑賞して「こんなに面白かったなんて」と気付かされることもしばしば。そう考えれば、ネタバレを踏んだことがデメリットにならないどころか、創作物には「ネタバレを踏んでこその面白さ」も絶対にあるのです。


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