ヒナタカの雑食系映画論 第9回

『すずめの戸締まり』の“まるで時刻表”な上映回数に賛否。大作の優遇は「仕方がない」ことなのか

新海誠監督最新作 『すずめの戸締まり』の「まるで時刻表」な上映回数の多さが批判の対象になりました。でも、実は「妥当」と言えるものだったかも……? 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』などの例を鑑みて、分析してみます。※画像出典:(c)2022『すずめの戸締まり』製作委員会 /プレスリリース

(c)2022『すずめの戸締まり』製作委員会 /プレスリリース

『すずめの戸締まり』が公開から3日間で約133万人動員&18億8400万円を突破する、新海誠監督史上最高のロケットスタートを記録しました。作品評価もおおむね高く、年末年始に向けさらなるヒットも期待できるでしょう。
 

戸締まりではなく“締め出し”? 「上映回数の多さ」に苦言も集まる

反面、『すずめの戸締まり』は「公開初週の上映回数」が批判の対象にもなりました。例えば、TOHOシネマズ 新宿での公開初日の上映回数は33回で、劇場全体のスクリーン数の約40%が割り当てられました。全国での映画館での公開初週の土日の座席数のシェアは52%にまで達しています。

その様は「まるで電車かバスの時刻表」と呼ばれるほどで、イオンシネマ福島の公式Twitter時刻表のようなスケジュールを出していました。
 

同作の上映回数が多いことに歓迎の声もある一方、その影響で他のタイトルの上映回数が激減、もしくは公開日前日の11月10日に上映終了した映画もあります。おかげで『すずめの戸締まり』は、作品そのものの責任ではないことを前提として、「多様性デストロイヤー」や「すずめの締め出し」などの痛烈なワードで揶揄(やゆ)されてしまったのです。

しかし、結論としてはこの『すずめの戸締まり』の上映回数そのものは、ビジネス上での具体的な数字を鑑みると「妥当」または「やや多かった」ともいえるものでもありました。映画ファンの1人である筆者としては「他の作品のためにも、もうちょっと上映回数を抑えてくれてもよかったのに……」と思うのも、正直なところです。その理由を解説していきましょう。
 
 

他作品との比較では「席はかなり埋まっているほう」

実際に『すずめの戸締まり』の公開初週の土日の着席率(座席の数に対するチケット購入枚数)は、非公式の情報であるためあくまで概算ですが、約30%でした。埋まっている席が3割と聞くと少なく思えるかもしれませんが、あくまで平均値であり、実際は首都圏で満席近くになった回もいくつかあります。

他の映画の着席率を見ると、おおむね1~2割ほど。『すずめの戸締まり』と同日に公開された、世界的注目作の『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』であっても25%(公開初週の週末における座席数のシェアは14.2%)。つまり、『すずめの戸締まり』は他作品と比較した場合、「席はかなり埋まっているほう」なのです。
 
とはいえ、新海誠監督の前作『天気の子』はTOHOシネマズ 新宿で初日の上映回数が23回だった(全国の映画館の座席数シェアは28.6%)のに対し、今回の『すずめの戸締まり』は33回と1.5倍近く(全国の座席数は1.8倍以上)に増えています。対して興行収入は、『天気の子』が公開3日間で約16億4000万円で、『すずめの戸締まり』の約18.84億円はその約1.15倍ほど。今回は前作よりもタイアップ広告が多く宣伝費がかけられている事情もあるのでしょうが、興行収入を鑑みての前作比では、座席数は「やや多かった」とも言えるでしょう。

 

『鬼滅の刃』の頃とは映画館の事情が異なる

「スケジュールがまるで時刻表」というのは、2020年の『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』でも見られた現象であり、後者はTOHOシネマズ 新宿で42回(公開初週の週末における座席数シェアは57.8%)の上映がされていました。社会現象と化したコンテンツの最新作ということもあって、公開からの3日間の全国の興行収入は異次元の46億2300万円、着席率はなんと「6割超え」だったのです。
 


『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の上映回数は当時の批判対象になりましたが、新型コロナウイルスの影響で、他のビッグタイトル(特にハリウッド作品)がほとんど供給されていないこともあり、特殊な事例として多くの人に受け入れられていたようにも思います。筆者個人も、映画館のスタッフの知り合いから「『鬼滅の刃』が(映画館と映画業界を)救ってくれた」という話もよく聞いていました。

その後、コロナ禍が比較的落ち着いてきた2021年末公開の『劇場版 呪術廻戦0』はTOHOシネマズ 新宿で42回 (全国の映画館の座席数シェアは48.7%)、かつ公開から3日間の全国興行収入が26億9400万円。2022年4月公開の『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』はTOHOシネマズ 新宿で31回(全国の映画館の座席数シェアは48.6%)、かつ公開から3日間の全国興行収入が19億700万円など、やはり時刻表のようなスケジュールが組まれ、ロケットスタートを切りました。

しかし、そちらでも今回の『すずめの戸締まり』ほどの批判は起こっていなかったように記憶しています。事実として『すずめの戸締まり』よりも、前述した2作品の方が、座席数シェアは少なく、対して興行収入は多いので、その比較で言えば、やはり『すずめの戸締まり』の上映回数はやや多かったとも言えます。


>次ぺージ:『すずめの戸締まり』の上映回数がここまで批判された「もう1つの理由」


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