ヒナタカの雑食系映画論 第6回

「R15+」と「R18+」の線引きはどこ? 子ども向けでもPG12? 意外と知らない「映画のレイティング」の基準

映画好きの人にとって「PG12」「R15+」「R18+」という表記はおなじみでしょう。注意喚起または年齢制限を与える日本独自のこのレイティングは、第三者機関「映画倫理機構(映倫)」が与えているもの。何を基準に指定されるのか、分析してみます。※画像出典:(C)CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021 All rights reserved.

映画における「R15+」「R18+」という表記を見たことはあるでしょう。その意味は、言うまでもなく15歳未満、18歳未満の鑑賞を禁止するということ。どのような基準でこの区分が指定されているのか、具体的な例から見ていきましょう。
 

局部がはっきり映っても、R18+ではなく「R15+止まり」になる理由は?

(C)CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021 All rights reserved.

R15+やR18+の日本独自のレイティングは、第三者機関「映画倫理機構(映倫)」が与えているもの。どのような作品に付与されるかは、「映倫分類基準」に記されています。

R15+の項目においては、言語や性表現について「慎重に表現/扱われ/抑制されている」といった言葉が使われています。これだけだと基準がややあいまいにも思えますが、ひとまず「R18+にするほどではない」一定のラインがあることはうかがえるでしょう。

性表現のレイティングの基準に対しての具体例としては、5月27日から劇場で公開中の『帰らない日曜日』があります。こちらは全裸による性描写、また男性と女性それぞれの局部がはっきりと映るシーンがあるのですが、レイティングはR15+止まりとなっています。
 

宣伝会社の担当者によると「R15+の基準では性行為中に性器が映されるのはNG。だが、性行為中でない場合の性器の露出はその基準内に収まる」とのこと。つまり、ヘアヌードおよび局部がはっきりと映し出されたとしても、それが行為中でなければR18+にはならないのです。
 

過剰な残酷描写もR18+の対象。その過激さを“売り”にする作品も

「R18+にならないように工夫した例」に注目すると、さらに線引きは分かりやすくなっています。

例えば、『シェイプ・オブ・ウォーター』は行為中の男性に臀部(でんぶ)に黒いボカシを入れることで、『ミッドサマー』も同じく行為中にボカシを入れることでR15+に抑えており、後に公開された『ミッドサマー』のボカシなしのディレクターズカット版はR18+に引き上げられています。前述したように「行為中の局部がはっきりと映るとR15+には収まらない」ことがはっきりと分かるのです。
 

また、R18+になるほとんどの理由は過激な性描写ですが、まれに性描写が皆無でも『ニンジャ・アサシン』『ファイナル・デッドブリッジ』『マリグナント 狂暴な悪夢』など、「極めて刺激の強い殺傷出血、並びに肉体損壊の描写」のためにR18+が与えられることもあります。

残酷描写のために初回審査でR18+相当と判断された『ソウ3』は、映倫との協議の結果、4つのシーンの映像を暗くすることでR15+に落ち着いたこともあります。『ザ・レイド GOKUDO』は残酷描写そのものが大幅にカットされた形でR15+で公開され、こちらも後に該当シーンを復活させたディレクターズカット版がごく一部の劇場で上映されました。

これらの残酷なシーンでは「頭部が破壊され肉片が吹き飛ぶさま」など、完全に死に直結する、かつ過剰な肉体損壊描写にR18+指定が与えられている印象があります。逆に言えば、「肉体の一部が痛めつけられる」「首や腕がスパッと斬られる」ほどであれば、後述する「PG12」やR15+に収まるのでしょう。
 

「R15+に納めるための映像への規制(ボカシやモザイク)」は、自由な表現を求める映画ファンからの反発も招くこともありますが、R18+になると、言うまでもなく見る人の範囲を狭めてしまうため、送り手としては避けたいものでしょう。その逆に、R18+にされるだけの過激さをむしろ宣伝の「売り」にする『ムカデ人間2(3)』のような例もあります。

また、言語表現や麻薬の描写のみでR18+になる例は非常にまれであり、やはりそれだけであればPG12やR15+に収まる印象もあります。例外と言えるのは『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で、こちらは性描写以外でも「各種麻薬の常用」もR18+の理由の1つになっており、それも本編を見れば納得できるものでした。
 

“鬼滅”もPG12だった!? 子ども向けの映画にもPG12が付けられる理由

映倫のレイティングには他にも「PG12」があります。こちらは「12歳未満の年少者の観覧には、親または保護者の助言・指導が必要」という意図でつけられたもので、R15+とR18+とは違ってその年齢に達しない者の鑑賞を禁止するものではありません。

こちらも、基本的には軽度の下品な表現や性描写や薬物描写のある、大人向けの映画につけられるもの……と思いきや、『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』という明らかにファミリー向けの映画も「年少者の車の(無免許)運転の描写がみられる」という理由によりPG12を受けたことがありました。同じくファミリー向けの『ゴーストバスターズ/アフターライフ』も同様の理由でPG12になっています。
 

また、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』も「簡潔な刀剣による殺傷・出血の描写がみられる」という理由でPG12となっています。アメリカではR指定(17歳未満の観賞は保護者の同伴が必要)となりましたが、作品に必要な残酷描写を抑えることなく、かつ見ることを禁止しないPG12が、日本において過去最高の興行収入になるほどの特大ヒットの後押しになったとも言えるでしょう。ここは、日本独自のレイティングに感謝をするべきことなのかもしれません。

逆に、絵柄がかわいらしいアニメ映画『劇場版 メイドインアビス 深き魂の黎明』は、初回審査ではPG12だったものの、再審査によりR15+と判定されても規制をせずに公開、15歳未満には前売り券を返金する対応も話題になりました。こちらの理由は「児童に対する肉体損壊などの残酷な虐待の描写」のためであり、作品のファンからも「妥当な判断」などと称賛されていました。こちらは「一見すると子ども向けにも思えるが実は残酷で大人向け」である作品に対して、誤って子どもが見ないようにするための真っ当なレイティングと言えるでしょう。

とはいえ、 『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』が、「あなたの永遠のトラウマになる」 というキャッチコピーがつけられたホラー映画『ヘレディタリー/継承』(理由は「簡潔な薬物の使用並びに出血の描写がみられる」)と同じPG12という事実に「同じでいいの?」と思ってしまうことも事実。もしも、ファミリー向けに思えた映画のPG12のにギョッとした、子どもと一緒に見て良いのかと悩んだ人は、映倫の公式サイトで、その理由を確認してみるといいのかもしれません。


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