ヒナタカの雑食系映画論 第3回

4月を迎える全ての人へ。「新生活を始める時に見たい映画」5選 【映画ライターが厳選】

新しい環境にワクワクしている人、はたまた心機一転、何かを取り組もうとしている人などにおすすめの映画5選を紹介します。いずれも、2022年4月上旬に映画館で公開予定です。

(C)2021「世の中にたえて桜のなかりせば」製作委員会

いよいよ新年度。いまだにコロナ禍が続きふさぎ込みがちではあるけれど、新たな環境にワクワクしている人、はたまた心機一転して何かを取り組もうとしている人も多いことでしょう。

ここでは、2022年4月に劇場公開の「新生活を始めるときにぴったり」な映画を5つ紹介しましょう。いずれも、ただ楽しいだけの内容ではなく、良い意味での「苦さ」も含んでいる、だからこその学びも得られる作品です。
 

1:『フォレスト・ガンプ 一期一会』



「もう遅いかな」などと見切りをつけて何かを諦めてしまいそうになる心を振り払いたい人におすすめの映画です。1994年公開の映画で、現在はNetflix、U-NEXT、Huluなどで種々の配信サービスで観ることができるほか、一部の劇場で4Kニューマスター版が公開されています。

主人公には軽度の知的障害がありますが、自身の俊足を生かし、幸運も手伝って、さまざまな場所で成功を重ねていきます。ひとまず何かにチャレンジしてみれば、その人の持つ特性から、ポジティブな可能性を見出せるかもしれない、という希望を見出せるでしょう。はたまた、劇中の「人生はチョコレートの箱のようなもの、開けてみるまで中身はわからない」の言葉にあるように、どういう人生を送るかは誰にもわからないし、少し遅くなったとしても本当の幸せと愛をつかむことができるかもしれない……そんな人生賛歌にあふれた名作です。
 

2:『SING/シング: ネクストステージ』



家族と一緒に見る映画に迷っている人、そして何か大きなことにチャレンジしたい人におすすめなのがこちら。2017年公開のアニメ映画『SING/シング』の続編ですが、各キャラクターが個性的かつ魅力的ですぐに覚えられるので、今回から見ても楽しめるでしょう。

物語は世界的なエンターテインメントの中心地である都会で、ミュージカルを成功させるために奮闘するというもの。さまざまな欠点を持ちながらも、それを上回る「その人だからこそ」の魅力を持つ仲間たちがショーに挑む過程は愉快痛快。トラブルや困難に直面しても、夢に向けて諦めない姿勢そのものに勇気をもらえるでしょう。日本人でも知っている超有名な楽曲が多数披露されるきらびやかでゴージャスなショーの迫力は圧巻! 新たにB'zの稲葉浩志やアイナ・ジ・エンドも参加した、日本語吹き替え版も素晴らしい出来栄えです。
 

3:『やがて海へと届く』



この時期だからこその切ない別れ、または前向きな旅立ちを体験したい人におすすめしたいのが、4月1日に劇場公開のこちら。彩瀬まるの同名小説が原作で、スタジオジブリによる愛知県観光動画『風になって、遊ぼう。』を手がけた俊英・中川龍太郎が監督を務めており、「詩的」とも言える美しい映像と音楽のアンサンブルも魅力になっています。

引っ込み思案な主人公は、自由奔放でミステリアスな雰囲気を持つ女性と親友になるものの、彼女は1人旅に出たまま姿を消してしまいます。その「喪失感」と向き合い、社会人として真っ当に生きようとしながらも、彼女が最後に旅した地へと向かう様が描かれています。誰しもが何かを失う残酷な世界で、せめてもの救いとなるものは何であるのか……それを追い求める、はかなくも尊い物語になっていました。岸井ゆきのと浜辺美波のかわいらしいやりとりは一生見ていたくなるほど。冒頭のアニメーションも出色の出来栄えです。
 

4:『世の中にたえて桜のなかりせば』



何かの悲劇により心が傷ついても、それでも前向きに生きたいと願う人におすすめなのが、同じく4月1日に劇場公開のこちら。1954年の映画『ゴジラ』で主演を務めた俳優・宝田明が87歳にして初めてプロデュースを手がけており、2022年3月14日に亡くなったことで本作が遺作となりました。

岩本蓮加演じる主人公の女子高生は訳あって不登校で、元教師の担任の女性のアパートをたまに訪ねつつ、さまざまな境遇に置かれた人たちの終活を手伝うアルバイトをしています。終活はやがて訪れる死に向けて行うものというイメージがありますが、実際は生きている今、ささやかな日々や、そこから見出す希望に意識が向いていくことがわかります。かけがのえない毎日を大切にしたいと心から思える、尊いメッセージが込められていました。

なお、タイトルは、歌人の在原業平が詠んだ桜の歌から取られており、劇中では茨城のり子による詩「さくら」も引用されています。それらがどのような意味を持つかは、ぜひ本編を観て確認してください。見た後に桜の木を見ると、きっと感慨深い思いに打たれるでしょう。
 

5:『私はヴァレンティナ』



同じく4月1日に劇場公開のブラジル映画で、日本でも他人事とは思えない社会問題を描いたおすすめの作品です。小さな街に引越した17歳のトランスジェンダーであるヴァレンティナは、新しい生活に徐々に慣れていくものの、差別の目を向けられ、SNSでのいじめも受けてしまいます。「自分自身のまま学校生活を送る」というささやかな願いさえも難しいという、ヴァレンティナが受ける苛烈な差別と迫害が描かれるのです。

ブラジルでは、LGBTQの権利保障に前向きで同性婚も認められる一方、トランスジェンダーの中途退学率は82%、平均寿命が35歳とも言われるほど、深刻な事件の数々がいまだに起こっているという事実にも、暗たんたる気持ちにさせられます。主演を務めるのは、自身もトランスジェンダーを公表し、YouTuberでインスタグラマーでもあるティエッサ・ウィンバックで、当事者だからこその説得力を感じる迫真の演技を披露しています。つらい出来事が描かれているからこそ、それでもなおも残る希望も確かに感じられる、意義深い作品です。

この他、余命宣告を受けた女性の心理に真摯に向き合った『余命10年』も誰もが「限りある時間を大切にしたい」と心から願える内容でしたし、タイトルからして一見インモラルに思える『女子高生に殺されたい』も「人を簡単に信じる」ことの危険性を感じ取れるので、今、見ておきたい意義のある作品と言えるでしょう。

(C)2021「世の中にたえて桜のなかりせば」製作委員会



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