現在、映画界ではおぞましい性加害の問題が次々と発覚しています。突如として、今まさに事件が起こったわけではなく、長年にわたり問題が常習化し、黙認・無視がされ続け、明るみに出るまでにここまで時間がかかったということも、重く受け止められなければならないでしょう。

そのことに付随して、映画界でのパワハラや暴力もまた問題視されるようになってきています。「作品のための厳しい指導」という枠を明らかに超えた罵倒の言葉を記した記事や、児童に本当の暴力を振るう痛ましいという言葉では足りないメイキング映像も、「今になってようやく」批判の声が多く上がるようになったのです。

そして、監督という作品および現場を取り仕切る立場からだけでなく、俳優のワークショップという場での性加害やパワハラ、そして搾取もまた問題となっていることにも注目しなければならないでしょう。
 

ワークショップによって生まれた名作

ワークショップとは「受講者が主体となる体験型の講座」であり、俳優のワークショップもまた「実践」形式で演技を学べる、演劇そのものを体験できることが魅力となっています。プロの俳優を目指している人にとっては、同じ夢を持った生徒や映画監督との出会い、作品の出演のチャンスを得る場にもなっているようです。

そのワークショップがあってこそ生まれた名作も多くあります。例えば、インディーズ映画では異例中の異例となる大ヒットを遂げた上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』(2017)は、元々は映画監督や俳優の養成学校“ENBUゼミナール”におけるワークショップであり、“CINEMA PROJECT”という企画の1つでした。同作が、限られた場所や予算をも逆手に取り、スタッフとキャストが努力を重ねてこそ作り出された、見事なエンターテインメントに仕上がっていたことは、見た人であればご存じでしょう。
 

また、内藤瑛亮監督の『許された子どもたち』(2020)は中学生が同級生へのいじめをエスカレートさせ、殺害してしまった後の生き地獄を鮮烈に描いた内容。出演を希望する中学生を対象にワークショップを開催し、いじめの加害者や被害者を演じることによって考えを巡らせてもらうという製作過程を経ています。若い役者たちが、2カ月間にわたって真摯(しんし)にいじめの心理を学んだからこそ、役柄に大きな説得力が生まれたことは疑いようがありません。
 


その他、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』(2015)や橋口亮輔監督の『恋人たち』(2015)など、ワークショップによって生まれた名作は数多くあります。無名であった俳優たちが作品を通じて輝き、また大きな意義のある作品を作り上げたことは、掛け値なしに素晴らしいことだと断言できます。
 

素晴らしい作品が生まれる場で起こる問題

しかしながら、その素晴らしい俳優や映画が生まれるきっかけになるはずのワークショップにて(先ほどあげた映画とは関係のない場で)精神を病んでしまうほどに罵倒された、受講中に号泣や嘔吐(おうと)をする人もいたなど、痛ましいという言葉では足りない告発の声がSNSでは上がりました。そのような行為がまかり通っていたことは強い批判を受けるべきですし、2度と繰り返さない体制が必要です。

そして、性加害が明るみになった映画監督の作品の撮影を務めたカメラマンは「ワークショップをきっかけに性被害にあうケースが多数報告されている」「主催する会社がセクハラや性暴力を許さないと宣誓し、監督にも誓約書を書かせたり、個人的な連絡先の交換を禁止するなどのルール作りをすべき」「被害が起きないよう業界全体で徹底していくしかない」などと、性加害が起きやすいその環境について強い声を上げています。

さらには、ワークショップ代表からの、映画出演が決定した人への数万円〜10数万円の「出資」を願う文面も問題視されています。

映画界のパワハラとセクハラの問題についてTwitterで発信を続けている松崎悠希氏は、ハリウッドではキャスティングに関わるワークショップを開催する際に参加費を取る事は「違法」である旨を告げ、全米キャスティング協会ワークショップガイドラインの要項を投稿しています。

もちろん、俳優が学ぶ場、教室であるワークショップそのものに参加者がお金を払うことには問題はないですし、ビジネスである以上、それは主催者にとっては当然の権利です。ただし、映画に出演することで本来はギャランティをもらうはずの俳優が、その逆にお金を支払わなければならないというのは明らかな搾取であり、プロの俳優になりたいと願う人の気持ちを踏みにじる行為です。
 

インディーズや自主製作の体制だからこそ「不透明な状態」という課題も

これらの問題を通じての何よりの懸念は、大手の製作会社ではない、インディーズや自主製作の体制であるからこそ、不透明さや閉塞感が生じ、だからこそ性加害やパワハラや搾取の温床になりやすいのではないか、ということです。受講者も主催者側も、そのような言語道断の問題がはびこるワークショップには断固として反対をすること、その問題が起こらないことを「当たり前」にしていくことが必要でしょう。

もちろん、俳優や関係者に真摯(しんし)に向き合うワークショップもありますし、前述したように、それでこそ素晴らしい俳優が育ち、意義深い映画が生まれます。業界そのものが改善していくことを、心から願っています。


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