ヒナタカの雑食系映画論 第9回

『すずめの戸締まり』の“まるで時刻表”な上映回数に賛否。大作の優遇は「仕方がない」ことなのか

新海誠監督最新作 『すずめの戸締まり』の「まるで時刻表」な上映回数の多さが批判の対象になりました。でも、実は「妥当」と言えるものだったかも……? 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』などの例を鑑みて、分析してみます。※画像出典:(c)2022『すずめの戸締まり』製作委員会 /プレスリリース

注目作品が多数ある中、『すずめの戸締まり』だけ“優遇”されていた?

なぜ『すずめの戸締まり』の上映回数がこれまでの事例よりも批判されたのでしょうか。それは、「他にも注目作品が多数あった」タイミング故に過剰供給だと見られてしまったことが、やはり大きいのでしょう。

特に『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』というビッグタイトルとの公開日のバッティングは「避けて欲しかった」という意見が多いですし、それ以外の映画を応援している人が『すずめの戸締まり』の優遇ぶりにムッとしてしまうのも致し方のないことなのでしょう。
 

なお、前作『ブラックパンサー』の公開初週の土日の全国の映画館の座席数シェアは13.9%、最新作の『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』はそれよりわずかに座席数は増えています。ただ、『すずめの戸締まり』の方に大きいスクリーンが割り当てられている印象は強く、IMAX上映を分け合ってしまったのも事実です。
 

『すずめの戸締まり』よりも着席率が高かった映画

実は『すずめの戸締まり』よりも着席率が高かった映画が2本あります。1本目が、インド映画『RRR』。口コミに火がつき、著名人からも続々と絶賛な声が届けられたおかげもあって、公開3週目で興行収入ランキングが8位にアップする右肩上がりの興行を遂げました

『すずめの戸締まり』と『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が公開された4週目では上映回数が激減し、IMAXでの上映も終了してしまいましたが、それでも10位に踏みとどまる大健闘を見せ、着席率は40%を越え、首都圏では満席になる回もありました。そして、日本におけるインド映画史上最速で興行収入2億円を突破したのです。
 

そして、こちらは完全にファン向けのアニメ映画のため、少し事情は異なりますが、公開11週目の『劇場版 うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEスターリッシュツアーズ』は、来場者特典が「FINAL」と銘打っていたためか、先週比216%の動員、興行収入ランキングが先週の8位から4位にジャンプアップし、その着席率は脅威の87%超え! 首都圏の映画館のほぼ全ての回が満席という、ものすごい現象を起こしていました。
 

他にも、現時点で2022年の最大の超ヒット作『ONE PIECE FILM RED』は新たな特典を用意し、公開15週目にもかかわらず約37%の着席率となっています。ちなみに、こちらの公開初週の土日を見ると、全国の映画館の座席数シェアは35%で、それだけで興行収入は22億5400万円に達していました。

こうした『すずめの戸締まり』よりも高い着席率となった映画がある以上、「そちらにもう少しスクリーンを割り振るべきだった」という言い方もできます。また、『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『名探偵コナン』などの事例から配給側が「味をしめた」ような印象も持たれていたことも、今回の上映回数の多さが反感を持たれた理由だったのかもしれません。
 

「上映回数を減らし満席状態を作る」のは、他の作品を知るきっかけに

半ば独占的なスクリーンの割り当てがいつまでも続くようでは、不信感を持たれてしまうのも致し方はないでしょう。もっとも、2019年公開の『アナと雪の女王2』における全国の映画館の座席数シェアは42.2%だったことから、コロナ禍以前にも「まるで時刻表のような上映時間」の事情はあったといえるかもしれません。

個人的には、超大ヒットを見込める作品であっても、少しスクリーン数を減らして満席の回がいくつか出てくるくらいでも良いと思います。「満席続出」ということがさらなる宣伝にもなるでしょうし、少し時間をズラせば問題なく観ることもできるでしょう。

満席だったから他の映画を観る→「そちらもとても良かった!」ということもあり得るのですから。映画業界全体が、多様な映画が観られるようになるバランスを、もう少しだけでも目指してみてもいいのではないでしょうか。


>次ページ:映画ライターが今こそ“激推し”したい「ビックタイトル以外の作品」


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