物語を知ってから観る or 繰り返し作品を観るのは「当たり前」の時代に
昨今では、「物語をすでに知っている」「ネタバレを踏んでも観る」作品は、むしろメインストリームともいえます。例えば、アニメ映画の『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』や『劇場版 呪術廻戦 0』は「原作漫画を読んですでに物語を知っている」作品のファンも多かったことでしょう。この場合、ネタバレ厳禁のサプライズなどではなく、「すでに知っている通りの内容」が期待されているといえます。特に『無限列車編』は映画館だけなく、地上波放送もされ、はたまた分割されテレビアニメとしても放送されています。つまり、複数回観ることが「当たり前」になっている、「何度でも観たい」と思わせるほど、作品の力があるということ。それは『鬼滅の刃』という国民的なコンテンツに限った話ではないはずです。
現在上映中の『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』も、「テレビですでに観た全く同じ内容を含んでいても、劇場のスクリーンでまた観たい」と思えるからこそ、ヒットしている例でしょう。
「知らない状態には戻せない」のも事実。いち早く作品に触れよう
総じて「ネタバレを踏んだとしても作品の価値はなんら損なわれることはない」と断言できます。ネタバレに当たる結末やサプライズは、あくまでも「驚き」。それは作品の価値を左右しない、受け手によるものなのですから。とはいえ、「ネタバレを知らない状態には戻せない」というのも事実。驚きもまた、創作物に触れる際の楽しみの1つです。「予想通り」「思った通り」ももちろん良いですが、そればかりではありません。
作品に初めて触れる、サプライズも含めて楽しめる「もう二度とない」体験は、やはり大切にしてほしいのです。例えば、最近の映画では、劇場上映中の『#マンホール』が「ネタバレを踏まない状態でなんとしてでも観て!」と願える内容でした。
また、どんな作品においても、ネタバレを踏まないためには「いち早く作品に触れる」が一番です。アニメやドラマであればリアルタイムの放送で観る、映画は公開されればすぐに観る。どんなコンテンツであれ「初動」が作品の売り上げに大きく貢献するので、そのほうが作り手のためにもなるでしょう。言うまでもなく、いち早く観た人こそ、SNSでの書き込みや周りの知り合いに話す際には、ネタバレに配慮をするべきです。
今だからこそ、「初めて知る」面白さも知ってほしい
また、昨今では「誰もが知る有名作品」により観客が集まり、知名度が高くない作品を原作とした映画や、完全にオリジナル企画の作品が厳しい傾向にあります。それは「思った通りの内容で安心したい」「裏切られたくない」というニーズがあるからでしょう。しかし、良い意味でのサプライズや裏切りが創作物にはあること、「初めて知る」面白さがある作品ももっと触れられることも、映画ファンの1人として願っています。
逆に言えば、オリジナル企画でも強い支持を得て愛される創作物は、底力のある作品だということ。例えば、個人的なオールタイムベストのアニメ映画『アイの歌声を聴かせて』は、絶賛に次ぐ絶賛の口コミが話題となり、本編は何も知らずに初めて観た時の、予想ができない&全ての伏線を見事に回収した展開にこそ、新鮮な驚きと感動がありました。
それは、その展開を知ってからもう一度観ると、序盤から泣けて仕方がなくなる素晴らしい「仕掛け」でもありました。細かい描写それぞれに全く無駄がなく、何度観ても新しい発見があり、30回以上観ていますが、まったく飽きる気配がありません。
ネタバレが有名な作品も、やっぱり面白い!
「有名すぎて結末やサプライズ要素を多くの人が知ってしまっている」作品も数多くあります。映画であれば『猿の惑星』『セブン』『シックス・センス』『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』、漫画であれば『あしたのジョー』が挙げられるでしょう。しかし、筆者個人の経験として、いずれの作品も「ネタバレを踏んで観て(読んで)もやっぱり面白い!」と心から思えました。前述した通り、結末に至るまでの伏線に気づいたからこそ楽しめましたし、作品をより深く知ることそのものにも確かな喜びがありました(とはいえ、知らずにこの驚きを体験できた人をうらやましくも思いましたが)。
ネタバレを踏まずに作品に触れることも大切ですが、「ネタバレを踏んでも、やっぱり面白い!」という価値観にも、ぜひ目を向けてほしいです。
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