ヒナタカの雑食系映画論 第10回

いい意味で“居心地が悪くなる”名作? 2022年公開の「有害な男性性」を描いた映画作品を振り返る

日本のアニメーション映画をはじめ、興行収入的に見ても超大ヒット作品が多かった2022年。一方で、海外作品を中心に「有害な男性性」を描いた映画が複数公開されていました。一種のトレンドとしても注目される「男性性」「ミソジニー」を扱った注目の作品とは? ※画像出典:(c)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

2022年は、コロナ禍を経て、超大ヒット作品が数多く公開された1年でした。日本のアニメーション映画は特に豊作で、興行収入185億円超えを果たした『ONE PIECE FILM RED』をはじめ、100億円超えの『すずめの戸締まり』、さらに12月3日に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』も50億円を突破。洋画では、『トップガン マーヴェリック』も130億円を上回り、大きな話題に。
 
『MEN 同じ顔の男たち』
(c)2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

一方で、「有害な男性性」を描く映画も数多く公開され、注目を集めました。海外の実写映画では「有害な男性性」あるいは「ミソジニー」の問題を描く映画が一種のトレンドになっています。2021年に日本公開された『プロミシング・ヤング・ウーマン』『最後の決闘裁判』『ラストナイト・イン・ソーホー』も高い評価を得ていましたが、2022年も称賛を得た作品が多く公開されていたのです。ここでは、2022年に公開された「有害な男性性」を扱った名作映画を紹介します。

 

『シャドウ・イン・クラウド』


クロエ・グレース・モレッツとグレムリンが戦闘機に乗ってバトル……という、いかにもB級的な発想かつ低予算な作品ながら、男性が女性へ抑圧的かつ性差別的な言動をする様を、良い意味でストレスフルに描いています。だからこそ、当時の女性兵士へのリスペクトを大いに感じる志の高い作品です。笑ってしまうほどに荒唐無稽な展開も、本作なら「アリ」でしょう。
 

『バーバリアン』


女性が民泊をするために一軒家を訪れると、ダブルブッキングをしてしまった親切そうな男性がいて、共に泊まることを余儀なくされ……その後は予想もつかない恐怖が待ち受ける、ネタバレ厳禁のホラーです。「男女の距離感」を巧みに描いた作品でもあり、抑圧される女性の心情を描いている点で、2020年の映画『透明人間』にも通じる内容でした。
 

『ドント・ウォーリー・ダーリン』


「完璧な生活が保証された街」に住んでいる女性が、その場所の「おかしなこと」を知っていく様を追うスリラー。劇中の設定から「夫が外に働きに出て、妻は家を守るべき」という凝り固まったジェンダーロールへの痛烈な風刺も込められていることが分かるはず。もっと広い、「多様性」や「自由意志」の必要性も訴えられているといっていいでしょう。
 

『あのこと』


法律で中絶が禁止されていた1960年代のフランスにて、妊娠した大学生があらゆる手段を使って中絶を試みる様を、巧みなカメラワークで「体感」させるドラマ。目をそらしてしまいたくなる、身悶えするほどにつらいシーンがありますが、だからこそ「当事者」として、当時の女性が受けていた抑圧を知る意義があります。
 

『ザリガニの鳴くところ』


湿地帯で育った女性が、将来有望な金持ちの青年の殺害容疑をかけられてしまい、それからの法的劇と、これまでの彼女の半生を同時並行して追う内容。謎を解き明かすミステリーというよりも、青春ものや恋愛ものの要素が強く、女性への容赦のない差別や偏見、さらに人の思惑によって人生が変わる不条理さが示されながら、作り手の慈しむような人間賛歌が伝わる物語でした。
 

『MEN 同じ顔の男たち』


心の傷を負った女性が田舎町にやってきて、想像を絶する恐怖に出会うというシンプルな内容ながら、おぞましい有害な男性性とミソジニーをこれでもかと表現した作品。R15+指定でもやや甘いと思える、「永遠のトラウマになること必至」と銘打たれるほどの、露悪的でグロテスクなクライマックスが待ち受けています。ホラーを見慣れている人でも、ある程度の覚悟をもって観たほうがいいでしょう。

これらの映画が生まれた背景には、やはりハリウッドで長年にわたるセクハラや性暴力が明るみになり、「#MeToo」運動が起こったためでもあるのでしょう。

さらに、2023年1月6日に、まさに元映画プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行を告発した2人の女性記者の回顧録を映画化した『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』も公開となります。男性こそ、これらの作品を観て問題の根深さを知り、良い意味で居心地が悪くなることに、確かな意義があるはずです。


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