ヒナタカの雑食系映画論 第8回

たしかに「新海誠っぽい」ポスターは増えたけど…『君の名は。』以降の青春SFアニメ映画の“現在地”

パッと見の印象で「『君の名は。』っぽい」「ジェネリック新海誠」と言われてしまうアニメ映画はなぜ生まれるのでしょうか。その理由を解説すると共に、「実際に観てみるとまったく違う魅力」あることも紹介しましょう。※画像出典:(C)2022 「僕愛」「君愛」製作委員会

『君の名は。』“以前”の名作の存在

そもそも、少年少女が主人公の青春SF恋愛アニメ映画が、全て新海誠監督の影響を受けているというのも極端な考え方でしょう(そもそも『君の名は。』だって『転校生』(1982)をはじめ、さまざまな先人の映画に影響を受けていたりもするのです)。

そのざっくりしたジャンル分けで言えば、筒井康隆の小説を原作としながらも、全く異なる内容で圧倒的な支持を得た、2006年の細田守監督によるアニメ映画『時をかける少女』があるのですから。『君の名は。』以前に、そのジャンルでの名作は確かに生まれているのです。
 
(C)「時をかける少女」製作委員会2006
(C)「時をかける少女」製作委員会2006

ただ、その少年少女が主人公の青春SF恋愛アニメ映画というざっくりしたジャンル、パッと見の「きれいな青空」と「少年少女が佇む」ビジュアルを推した作品が、『君の名は。』以降に多くなりすぎているというのも事実でしょう。

似た要素がある内容であったとしても、ポスターは思い切り差別化を図った方が良いのかもしれません。事実、『夏へのトンネル、さよならの出口』『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』はそれぞれ、前述したものとは少し異なる印象のポスターも作られています。実際の映画の内容も、これらのビジュアルの方がより近い印象を持ちました。
 
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(C)2022 八目迷・小学館/映画「夏へのトンネル、さよならの出口」製作委員会
 
(C)2022 「僕愛」「君愛」製作委員会
(C)2022 「僕愛」「君愛」製作委員会
 
(C)2022 「僕愛」「君愛」製作委員会
(C)2022 「僕愛」「君愛」製作委員会
 

これからのアニメ映画への危惧、そして期待すること

改めての結論を、もう一度告げておきましょう。「ポスターなどのビジュアルや、なんとなくのジャンル分けの印象で『新海誠監督作っぽいな』と思ったとしても、実際に映画を観てみると全く違う魅力があることが多い」、ということです。

その上で危惧していることは、新海誠監督や細田守監督という2人の名前が国民的アニメ映画として認知されている一方で、それ以外の作品がなかなか観られない、それどころか知られないままになってしまいかねない、ということです。もちろん作家の名前がブランド化されることは商業上とても喜ばしいので、これからは新海誠監督や細田守監督以外の名前も、大きく取り上げられるようになってほしいのです。

そして、2021年には新海誠監督とも、細田守監督とも全く異なる、独自の作家性を生かし、さらに老若男女におすすめできる内容に仕上がった、オリジナル企画による歴史的大傑作『アイの歌声を聴かせて』も生まれています。こちらはSNSでの絶賛に次ぐ絶賛の口コミやファンアートが話題となり、公開からしばらくして首都圏の劇場で満席が相次ぐなど、とても愛された作品になっています。
 
(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会
(C)吉浦康裕・BNArts/アイ歌製作委員会

関連記事:【2021年アニメ映画ベスト5】映画ライターが“豊作の1年”から傑作を厳選!

『HELLO WORLD』の伊藤智彦監督、『夏へのトンネル、さよならの出口』の田口智久監督、『僕が愛したすべての君へ』の松本淳監督、『君を愛したひとりの僕へ』のカサヰケンイチ監督、そして『アイの歌声を聴かせて』の吉浦康裕監督など、それぞれの名前と作品がもっと知られる、観られるようになることを願っています。もちろん、11月11日公開の新海誠監督の最新作『すずめの戸締り』にも、期待しています。


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