ヒナタカの雑食系映画論 第7回

映画の「倍速視聴」は必ずしも“悪”ではない。「映画館=等倍速で集中して観る環境」があれば大丈夫と思う理由

【映画ライターが考察】「映画の倍速視聴」をしている人は多くいます。ここでは、それを過度に敵視したり問題視するのではなく、「倍速視聴は基本的にはおすすめしない」「だけど映画館があれば大丈夫」という論点で、個人的な主張を記しておきます。

「ファスト映画」で失われてしまうものは?

もちろん、スキップして映画を観ることもおすすめしません。筆者個人の経験としては、『リベリオン』という、銃と格闘術を組み合わせたアクションが見どころの映画の“その部分だけ”を友達の家で観ていて、それも楽しかったと記憶しているのですが、後に通しで観てみると前後の展開があってこその爽快感や面白さ、メッセージや物語の深みがあったのだと(当たり前のことですが)痛感しました。

そして、問題となった違法の「ファスト映画」、または結末までネタバレを記したネットの記事などで、「映画を観た気になる」というのは、さすがに論外です。文字情報や一部の画像を切り出しただけでは、絶対に分からないことがある、それほどに映画はたくさんの情報や魅力が詰まっているのですから。
 

「映画館=作品を集中して観るための環境」があれば、きっと大丈夫

とはいえ、筆者は「なるべく映画は倍速視聴してほしくはないなあ」と思うくらいで、そこまで問題視しているわけでもありません。その大きな理由は「映画はそもそも映画館で観るために作られている」「映画館では倍速視聴ができない」からです。

映画はテンポ、演出、音響、俳優の演技でこそ伝わる複雑な感情など、「大きなスクリーンで」「それだけを集中して観る」ことを前提にして作られています。もちろん配信前提となっている映画もありますが、雑音や普段の生活など、気の散ってしまう要素が多い家庭で、2時間弱という時間を集中することが、人間の生理として難しいというのも当たり前だとも思うのです。

筆者も申し訳ないですが、外出先など、タブレットで映画を観る際は倍速視聴をしてしまうことがよくあります。矛盾しているようですが、気が散ってしまう環境でこそ、個人的には「集中して観るために」倍速視聴を選んでしまいがちなのです。より情報を圧縮することで、他に目移りしないようにする、よそ見をしながら観るよりはマシだという心理が働いているからなのかもしれません。これが習慣づいて「倍速視聴が当たり前」になってしまうと、なかなか元の等倍速で観ることが難しくなってしまうことも痛感しました。

しかし、映画館であれば強制的に「等倍速」で観ることになりますし、前述したような「それだけを集中して観ること前提とした環境」に自分を置くことができます。さらには他の不特定多数の客同士が同じ時間を共有する魅力もありますし、もちろん話題の最新作を観るというバリューもあります。
 

「ウォッチパーティー」も映画を“等倍速”で楽しむ選択の1つ

配信であっても、今は「ウォッチパーティー」というチャットをしながら映画を観るサービスがあります。筆者もやってみたことがあるのですが、これが実に楽しい! シーンごとの興奮を書き込んだり、ときにはツッコミを入れたりする「リアルタイム制」でもあるので、もちろんみんなが同じ時間に等倍速で観ることになります。

つまりは、いかに倍速視聴が当たり前になり、それに慣れてしまったとしても、「等倍速で観る機会はある」のです。映画を最大限に楽しむ場所を提供する映画館、またはウォッチパーティーという新しい文化があればこそ、倍速視聴をしない映画の面白さや魅力を思い出すことはできるはずなのです。

だからこそ、個人的には「倍速視聴なんて言語道断だ!」と過度に敵視せず、「できれば映画館に映画を観に行ってほしいなあ」「例えば、本物の戦闘機によるド迫力の空中戦を堪能できるし、胸アツなドラマも詰まっていて、超大ヒット&全ての映画の中でもトップクラスの絶賛の嵐になっている『トップガン マーヴェリック』とか……」などと、普段は倍速視聴をしている人に促したいのです。こうしてくどくどと説教をせずとも、映画館で映画を観れば、きっとその良さを分かっていただけるはずですから。


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