ヒナタカの雑食系映画論 第232回

映画『氷血』で北山宏光が「怖すぎる」理由。サイコパス性が光る物語の魅力3つ

映画『氷血』は、数々の恐怖演出のなかでも、主演を務める北山宏光がいちばん怖いと断言できる内容でした。見る前の注意点のほか、3つのポイントから作品の魅力をまとめましょう。 (画像出典:(C)2026映画 「氷血」 製作委員会)

3:『雪女』を読み解き直す物語だった

本作のモチーフとなっているのは小泉八雲の怪談『雪女』。本作はそこにアンチテーゼ的な要素を込めており、それによってフェミニズム的なテーマも内包していることが重要でした。

怪談『雪女』および、劇中の冒頭で「絵本」として提示されるのは、以下のような物語です(ちなみに、その絵本は内藤監督自身が映画のために描いた、原作に忠実な内容とのこと)。

「雪の中で恐ろしい雪女と遭遇した若いきこり。幸運にも命を救われた彼は、若く美しい女性と結婚して子宝を得る。しかし、この女性こそが雪女だった。彼女との約束を破ったため、雪女はきこりと子どもたちを残して姿を消した……」

内藤監督はこの物語に違和感を覚え、「雪女がかわいそう」と思えたことと、「約束を破ったのは男の方なのに、なぜ彼女は愛する子どもたちと離れなければいけないんだろう?」と疑問を持ったことが、企画の発端になっていたのです。
氷血
(C)2026映画 「氷血」 製作委員会
その言葉通り、劇中の物語には雪女はもとより、苦しんでいる女性への「救済」と言えるテーマ性が確実に盛り込まれていました。

『シンデレラ』のような価値観のすべてを肯定しない実写映画『鬼の花嫁』や、『竹取物語』のバッドエンドをハッピーエンドまで持っていこうとするアニメ映画『超かぐや姫!』もそうですが、古典的な物語を現代的な価値観で語り直すという意義も、この『氷血』にはあるのです。 また、女性の脚本家が共同脚本を手掛けていることも、本作には確実にプラスに働いていたと言えます。

脚本家の片桐絵梨子は、2024年のKADOKAWA第3回日本ホラー映画大賞における『夏の午後、おるすばんをしているの』で大賞を受賞した経験の持ち主。「家父長制的なものに女性が圧迫される」物語の方向性はもともと作品にあったものですが、内藤監督によると「片桐さんは抑圧される悠希の感情の描き方が本当に上手い」「稔は稔でジワジワと圧をかけてくるし、片桐さんはそこも絶妙のニュアンスで書いてくださいました」と称賛していたのだとか。

つまりは、北山宏光のリアルなモラハラ夫ぶりも、女性の共同脚本家が参加してこそのもの、という言い方ができるのです。エンタメとして恐怖を感じるだけでなく、本作のフェミニズム的なテーマを読み解く意義も、ぜひ映画館で感じてみてほしいです。
ヒナタカ
この記事の執筆者: ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。 ...続きを読む
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