ヒナタカの雑食系映画論 第211回

実は「パワハラの解像度」が高い映画『HELP/復讐島』を見る前に知ってほしい3つのこと

『HELP/復讐島』は笑えてゾッとする、素晴らしい娯楽作でした。実は「パワハラの解像度が高い」ことを含めて、見る前に知ってほしい3つのことを解説しましょう。(※画像出典:(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.)

1:「穏やかかつ静かなパワハラ」が本当にムカつく

本作の大きな美点は、冒頭でパワハラの浅ましさをしっかりと描いていること。パワハラと聞くと「声を張り上げて罵倒をする」「感情を爆発させて暴言を吐く」といったことを想像しやすいですが、本作で描かれているのが「穏やかかつ静かに、精神的にも立場的にも追い詰めていくパワハラ」であることに戦慄したのです。
ヘルプ映画
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
例えば、主人公は上司の亡くなった父親から昇進を約束されていたはずだったのですが、それを当の上司はあっさり「そうなの」と言って反故(ほご)にします。

しかも、その不服を訴えに来た主人公に対して、「大した度胸だ」「君は賢いし数字に強いことも知っている」と持ち上げたかと思いきや、「一緒にゴルフができる男の友人のほうを傍に置きたい」という自分本位かつ「彼女の努力をいっさい評価しない」理由を告げるのです。これははっきりと「学習性無力感」を植え付ける、パワハラに相当します。

あまつさえ上司は「バンコクの出張に同行して見返してみろ」と挑発めいたことを言うのですが、それは「左遷させる」口実にすぎませんでした。

さらにダメ押しとなったのは、主人公がオフィスでこっそりツナサンドを食べていて、上司へ話す時にそれが口についていたという事実。それを「個人的」に不快に思った上司は、「苦情が届いている」という「オフィス全体に関わる問題」に転換して、彼女をやはり「穏やかかつ静かに」糾弾するのです。(その直前にある、ツナサンドの不快さを別の部下に「押し付ける」ようなパワハラも最悪!)

パワハラの問題の本質をついていると思えたのが、この上司がパワハラをパワハラと思っていなさそうなこと。「だって、コイツ不快じゃん。俺は上司としての権限があるし、当たり前のことを言っているだけだし?」という感情が、彼の態度や言動からありありと伝わってくるのです。
ヘルプ映画
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
しかも、ツナサンドの件は客観的には「彼女にも非がある」と思わせる、映像として口についた食べ物の不快さが確かに伝わってくるからこそ、本作は観客をも上司の感情への「共犯関係」に巻き込んでいきます。その演出の積み重ねが、むしろ誠実だと思えました。

そのような短絡的な感情で、その人の努力や本質をないがしろにしてしまう言動をすることこそ、パワハラだと思わせるのですから。

ここで今一度、厚生労働省によるパワハラの定義を挙げておきましょう。

以下の1から3までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理

1:優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
2:業務の適正な範囲を超えて行われること
3:身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

こうして文字として見ただけでは想像はしづらいですが、『HELP/復讐島』の冒頭で描かれたことは、なるほどこの1〜3の全てに当てはまる、完全なパワハラだと納得できるでしょう。それをまざまざと映像として見せることで、本作はパワハラの問題へ真摯(しんし)に向き合った作品だと思えたのです。
ヘルプ映画
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
さらに、その後の出張に向かう飛行機内では、「上司たちがみんなでよってたかって、主人公が好きなサバイバル番組へのアピール動画を嘲笑する」という、醜悪としか言いようのない光景も目の当たりにできます。

そんな風に「こんなパワハラをするやつらはみんな地獄に落ちればいいのに!」というムカつきと、主人公のとてつもない無念と屈辱を目の当たりにしたからこその、その後のスカッと爽やか(?)な展開に期待してほしいところです。

2:完全に『死霊のはらわた』『スペル』の頃のサム・ライミ監督作だった

本作で重要なのは、何しろ監督がサム・ライミであること。スーパーヒーロー映画『スパイダーマン』シリーズで有名ではありますが、出世作となったのは何しろスプラッターホラーの代表格と言える『死霊のはらわた』です
その続編の『死霊のはらわた2』や『キャプテン・スーパーマーケット』は「本来はホラーのはずの要素」が「もはや笑える」コメディーへと昇華されていましたし、スーパーヒーロー映画の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』でも「ライミ監督らしさ」が限界まで盛り込まれた作品でした。
どういうところがライミ監督印のホラー演出と言えるのか? といえば、「勢いのあるカメラワーク」「過剰な血しぶきや嘔吐」「死体が襲いかかってくる(ゾンビ)」といった、やっぱり悪趣味(褒め言葉)なものです。

本作は仮にも「無人島サバイバル」というジャンルであり、普通に考えれば「血まみれホラー」の出番はないはずなのですが、しっかりそうしたライミ監督の悪意がほとばしっていたことに感動(もしくは爆笑)しました
ヘルプ映画
(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
ライミ監督のフィルモグラフィーの中で、今回の『HELP/復讐島』にいちばん近いのは『スペル』でしょう。「社会人の女性が主人公」かつ「仕事中に誤った対応をしたせいで酷い目に遭う」物語の発端や、「口まわり」へ生理的な嫌悪感を与えるようなショック演出も共通していたのですから。
そうしたライミ監督の作家性を知っている人にとっては「待ってました!」となるでしょうし、知らない人も良い意味で「やりすぎだよ!」と悪意いっぱいのサービスに喜べることでしょう。
次ページ
主人公もけっこうヤバい?「想像すると怖い」ホラーでもある
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

連載バックナンバー

Pick up

注目の連載

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『ミルキー☆サブウェイ』は劇場版の追加シーンも重要!『超かぐや姫!』との共通点、愛されるアニメの「正解」とは

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    江ノ電20年ぶり新車、謎の「1人掛け席」の正体は? 観光サービスではなく「混雑地獄」に挑む苦肉の策

  • 海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン

    「移民」に冷たいのはどっちなのか? スイスの厳格過ぎる学歴選別と、日本の曖昧過ぎる外国人政策

  • 世界を知れば日本が見える

    【解説】参政党躍進に“ロシア系bot”疑惑、証拠なく“自民党の情報操作”との見方も