ヒナタカの雑食系映画論 第210回

『クスノキの番人』が“派手ではないアニメ映画”の究極系だった理由。伊藤智彦監督が掲げた「3つの柱」

アニメ映画『クスノキの番人』は「派手ではない」からこそ素晴らしい作品でした。伊藤智彦監督が掲げた「3つの柱」を軸に、魅力を解説しましょう。(※画像出典:(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会)

クスノキの番人
『クスノキの番人』2026年1月30日(金)全国公開 配給:アニプレックス (c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
1月30日より、東野圭吾の小説を初めてアニメーションで映画化した『クスノキの番人』が劇場公開中です。
ヒナタカ
この記事の執筆者: ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。 ...続きを読む
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「派手ではない」アニメ映画の究極系

本作の最大の特徴は、後述するあらすじや設定から分かる通り「まったく派手ではない」こと。実際に伊藤智彦監督は企画を周囲に話す際、以下のような反応に何度も直面したそうです。

「派手なアクションもない、SFでもない、ホラーでもない。『どうしてこの作品を(アニメで)やろうと思ったんですか?』ってよく言われるんですけど(笑)こういうアニメーションも誰かが作らないと、途絶えてしまいます」

メインのジャンルはヒューマンドラマで、ほんの少しファンタジー要素もある、というバランスのため、言ってしまえば「実写でも映像化はできる」内容ではあるでしょう。『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』など「超絶作画のアクション」が見どころとなるアニメ映画とは対照的な試みなのも確かです。

しかしながら、実際の本編は「この物語をアニメ映画にしてもらって良かった……!」と心から思える、伊藤監督とスタッフの挑戦が報われている、終盤はずっと目頭が熱くなる、素晴らしい作品だったのです。
また、原作小説にわずかにあった性的な言及は映画にはありません。言葉がやや難しいところはあるものの、小学校高学年くらいからであれば楽しめるでしょう。

何より、主人公の境遇やメッセージ性からすれば、若者にこそ見てほしいと心から願うことができました。その理由を、本編の魅力とともに記していきましょう。

謎解きは最重要ではない、その上で掲げた「3本の柱」とは

本作のあらすじは、理不尽な解雇により職を失った青年が、追い詰められた上に過ちを犯して逮捕までされるものの、伯母を名乗る人物から「クスノキの番人」になることを命じられる、というものです。
クスノキ
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
クスノキの元に人が訪れるのは「祈念(きねん)」のため。祈ることで自身の願いが叶うと本当に信じている(?)ようなので、主人公は「本当にそんなことがあるの?」と疑います。

そこには「祈念する時期が、新月の時期と満月の時期の2度あるのはなぜなのか?」といった謎もありますし、原作小説では「祈願や願掛けではなく、祈念という言葉を使う理由は?」という問いかけもされていました。

そうした「クスノキにまつわる秘密」のミステリーが物語をけん引している……のですが、伊藤監督は「原作はヒューマンドラマの方に重心が置かれている」「謎解きが最重要というわけではない」と考えていたそうです。
クスノキ
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
しかも『クスノキの番人』の世界をアニメーションとして立ち上げるため、伊藤監督は制作の前に、以下の「3本の柱」を掲げていたといいます。

1. ファンタジー性のあるヒューマンドラマとして描く
2. 静かなストーリーだからこそ、アートな画面を作る
3. 物語の重要人物である千舟をかっこよく描く

この3本の柱は、実際に制作のあらゆる工程における重要な判断基準となったのだとか。そして、その3本の柱こそが、この『クスノキの番人』を特別な作品にしていたのです。
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孤独な主人公が成長していく群像劇だった
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