この記事の執筆者:
ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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「派手ではない」アニメ映画の究極系
本作の最大の特徴は、後述するあらすじや設定から分かる通り「まったく派手ではない」こと。実際に伊藤智彦監督は企画を周囲に話す際、以下のような反応に何度も直面したそうです。メインのジャンルはヒューマンドラマで、ほんの少しファンタジー要素もある、というバランスのため、言ってしまえば「実写でも映像化はできる」内容ではあるでしょう。『鬼滅の刃』や『チェンソーマン』など「超絶作画のアクション」が見どころとなるアニメ映画とは対照的な試みなのも確かです。「派手なアクションもない、SFでもない、ホラーでもない。『どうしてこの作品を(アニメで)やろうと思ったんですか?』ってよく言われるんですけど(笑)こういうアニメーションも誰かが作らないと、途絶えてしまいます」
しかしながら、実際の本編は「この物語をアニメ映画にしてもらって良かった……!」と心から思える、伊藤監督とスタッフの挑戦が報われている、終盤はずっと目頭が熱くなる、素晴らしい作品だったのです。 また、原作小説にわずかにあった性的な言及は映画にはありません。言葉がやや難しいところはあるものの、小学校高学年くらいからであれば楽しめるでしょう。
何より、主人公の境遇やメッセージ性からすれば、若者にこそ見てほしいと心から願うことができました。その理由を、本編の魅力とともに記していきましょう。
謎解きは最重要ではない、その上で掲げた「3本の柱」とは
本作のあらすじは、理不尽な解雇により職を失った青年が、追い詰められた上に過ちを犯して逮捕までされるものの、伯母を名乗る人物から「クスノキの番人」になることを命じられる、というものです。
そこには「祈念する時期が、新月の時期と満月の時期の2度あるのはなぜなのか?」といった謎もありますし、原作小説では「祈願や願掛けではなく、祈念という言葉を使う理由は?」という問いかけもされていました。
そうした「クスノキにまつわる秘密」のミステリーが物語をけん引している……のですが、伊藤監督は「原作はヒューマンドラマの方に重心が置かれている」「謎解きが最重要というわけではない」と考えていたそうです。
この3本の柱は、実際に制作のあらゆる工程における重要な判断基準となったのだとか。そして、その3本の柱こそが、この『クスノキの番人』を特別な作品にしていたのです。1. ファンタジー性のあるヒューマンドラマとして描く
2. 静かなストーリーだからこそ、アートな画面を作る
3. 物語の重要人物である千舟をかっこよく描く



