ヒナタカの雑食系映画論 第210回

『クスノキの番人』が“派手ではないアニメ映画”の究極系だった理由。伊藤智彦監督が掲げた「3つの柱」

アニメ映画『クスノキの番人』は「派手ではない」からこそ素晴らしい作品でした。伊藤智彦監督が掲げた「3つの柱」を軸に、魅力を解説しましょう。(※画像出典:(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会)

アニメだからこそ「現実でもこうなんだよなあ」な感情を描ける

『クスノキの番人』は最初に掲げたように、派手なアクションで魅せるタイプの作品ではまったくありません。しかしながら……いや、だからこそ、アニメで描ける「感情」がとても豊かで繊細なことに気付けるのではないでしょうか。
クスノキ
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
例えば、主人公が近くの誰かの気持ちを「察した」時の表情の変化、彼が出会うキャラクターそれぞれの人々の「仕草」などが、言葉よりも雄弁に「語っている」と思えたのです。

それは、実写映画での俳優の力でも語れることなのかもしれません。しかし、アニメで「現実でもこうなんだよなあ」と思える感情を描いてこその、気付きや感動があるということは、高畑勲監督や片渕須直監督が挑戦し続けた、「静かだけど豊かなアニメ」の魅力であり、それこそを『クスノキの番人』は突き詰めていたといえます。

また、伊藤監督は「SNSの短い動画で情報を受け取る人も多い時代ですが、2時間かけて1つの映像に集中する体験は、現代ではむしろぜいたくになっているんじゃないかと。外から遮断された暗闇の中でスクリーンだけに意識を向け続ける。それはある意味、宗教的とさえ言えるほど特別な時間だと思うんです」と語っています。
クスノキ
(c)東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
派手な画や見せ場がある作品ももちろん映画館で映えますが、個人的には静かなヒューマンドラマでこそ、登場人物の微細な感情の変化に気付くことができるので、映画館で見たいと思うことがよくあります。

それはまさにこの『クスノキの番人』にも当てはまっており、映画館という空間で集中して見ていたからこその、思わず感涙してしまう感情を、クライマックスで「見つける」ことができたのです。

また、原作者の東野圭吾は、執筆にあたって「アニメーションになれば素晴らしいのでは」と思っていたそうです。その理由は「いつも以上に空想力を必要とした」「超自然的な現象が頻繁に出てくるので実写化するのは難しいだろう」という考えにもあったのだとか。

その原作者の意向に沿った「アニメ化の意義」を、超自然的な現象が起こるファンタジーだからだけではない、ヒューマンドラマの中にある感情にも見つけることができたのが、うれしい驚きでした

「ご褒美」が用意された再構成も完璧

本作は原作から1本のアニメ映画にするための「再構成と調整」も完璧といえます。

原作は小説なので状況や心理を事細かに記せているのですが、映画では会話がタイトに切り詰められていたり、説明が省略されている場面も多くあります。しかし、映画のほんのわずかな言葉や描写から、それらが過不足なく伝わっていたことに驚きました。序盤に重要な人物が前もって登場するなど、ダイナミズムをより強調した構成は、約2時間で一気に見る映画として大きなプラスになっています。

さらには、主人公が中盤で自己嫌悪に陥る様が、原作よりも苛烈に感じられる改変がされており、そこからの「復帰」がアニメ映画独自の挿入歌の演出もあって、劇中で屈指の感動を呼ぶことにもつながっていました。脚本を担当した岸本卓は『ハイキュー‼』や『僕だけがいない街』など多数のテレビアニメでのシリーズ構成と脚本を手掛けており、今回もその手腕がいかんなく発揮されていたのです。
しかも、伊藤監督は「シナリオ会議では初期段階から『玲斗(主人公)にご褒美をあげたい』という話をしていて。それが原作にはない展開へと繋がっていったんです」と語っています。

それは、原作を読んでいない人にとってもご褒美のようなサプライズでもあり、初めてこの物語に触れる人にとっても大きな感動があることでしょう。繰り返し記したように、ぜひ劇場でこそご覧になってほしいです。
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