恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」 第123回

江ノ電20年ぶり新車、謎の「1人掛け席」の正体は? 観光サービスではなく「混雑地獄」に挑む苦肉の策

江ノ電が20年ぶりに導入する新型車両「700形」。一見、観光に特化した優雅な座席配置に見えるが、実は深刻化する「混雑地獄」に立ち向かうための苦肉の策だった。増発も増結もできない物理的限界の中で編み出された、驚きの「スペース確保」戦略とは?

江ノ電700形
江ノ電の新型車両700形
江ノ島電鉄(通称:江ノ電)の新型車両700形は、2両1組の連接車両。緑とクリームの江ノ電カラーも踏襲し、最近はやりの斬新なデザインで、いかにも2020年代の新型車両という雰囲気である。

しかし、その導入の背景には、江ノ電ならではの切実な事情があった。
連接台車
700形も2両1組で連接台車を使っている

増発や増結は不可能な江ノ電の現状

単線
江ノ電は全線単線だ。画面左奥に見えるのは江の島
江ノ電は全線単線、各駅のホーム有効長は4両編成が限度である。電車のすれ違いが可能な駅も多くないので、かつては12分間隔で運行していて、それが限度だった。

しかし、近年の混雑で各駅での乗り降りに手間取り定時運行が確保できなくなっている。そのため、列車ダイヤに余裕を持たせるため14分間隔に変更し、それが一層混雑に拍車をかけているとも指摘される。

こうした状況から、車両に少しでも多くの人を収容することに活路を見いだすしかなかったのである。
4両編成
江ノ電は4両編成が限度だ。写真は鵠沼(くげぬま)駅に到着する藤沢行き

謎の座席配置、「1人掛け」導入の正体

車内
700形の車内。海側がクロスシート、山側がロングシートになっている
そこで登場した新型車両700形。車内に入ると、その座席配置に驚く。

運転台後ろに前面展望が可能な2人掛けクロスシートがあるのは、以前の車両でも見られたが、それ以外にも、ドアとドアの間(すなわち車内中央部分)にクロスシートが配置されている。これは江ノ電初ではないだろうか(車端部のクロスシートは10形、20形に見られる)。
クロスシート
クロスシートは1人掛け、向かい合わせの座席だ
ただし、全てがクロスシートなのではない。海側が1人掛け、2人向かい合わせのクロスシート、山側はロングシートなのである。

こうすると、電車が相模湾に沿って走る区間では、どの座席からでも海が見えることになる。窓ガラスには「ポジカくっきりフィルム」を貼付しているので、光のギラツキを軽減させ、まぶしさを抑えながら車窓をより色鮮やかに見せるという。鉄道業界初の採用である。

こう書いていくと、この車両はいかにも観光客用に特化したものに見える。

もちろん観光面でのサービスを考えているのは確かなのだが、実は、別の効用も考えている。

それは、近年深刻化しているオーバーツーリズムによる混雑の激化、地元の利用者からの乗るに乗れないとの苦情に少しでも対応しての苦肉の策ということである。
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「観光用」と誤解していませんか? 1人掛け席に隠された「裏の狙い」
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