ヒナタカの雑食系映画論 第175回

『スーパーマン』を見る前に知ってほしい5つのこと。排外主義が問われる今の日本だからこそ必見の理由

新たな『スーパーマン』の映画について、5つの知ってほしいことをまとめてみましょう。外国人差別や排外主義の問題がはびこる今の日本でこそ、見るべき理由もあったのです。(※画像出典:(c) &TM DC(c)2025 WBEI)

1:今回のスーパーマンは「苦労人」? クセ強な新チームも魅力的

本作でまず面白いのは、スーパーマンが絶対的に強いだけのヒーローではなく、とても「人間くさい」人物として描かれていることです。

例えば、劇中にはスーパーマンのほかにも「ジャスティス・ギャング」というヒーローチームが登場するのですが……彼らは言ってしまえば「問題児の集まり」。周りの影響を鑑みずに怪獣と派手に戦ったりするので、スーパーマンは彼らのサポート、というよりも、ほぼ「尻拭い」のような役割を押し付けられることも
スーパーマン
(c) &TM DC(c)2025 WBEI
「やれやれ」と言わんばかりの“苦労人気質”なスーパーマンに、思い切り感情移入できる人は多いことでしょう。

それでいて、ジャスティス・ギャングの3人それぞれはもちろん悪人ではなく、なんとも憎めないキャラクターだったりします。それぞれの特徴をプレス資料から引用しておきましょう。

・ミスター・テリフィック 演:エディ・ガテギ(諏訪部順一)
リーダー。優れた知能を持ちハイテク装備を駆使して戦う。

・ホークガール 演:イザベラ・メルセド(松岡美里)
翼を持ち大空を自由に飛びながら戦う。

・グリーン・ランタン/ガイ・ガードナー 演:ネイサン・フィリオン(東地宏樹)
ひねくれもので“ウザい”性格の異端児。

実写映画版があるグリーン・ランタン以外は有名なキャラではありませんが、キレキレのアクションもかっこよく、きっと今後のそれぞれの活躍も期待したくなるでしょう。

2:スーパーマンが「糾弾される」まさかの状況に

そして、本作は「希望の象徴」であるはずのスーパーマンが「問題視され糾弾される」という状況から物語が始まります。
予告編においても、スーパーマンことクラーク・ケントが、恋人のロイス・レインから“取材”という建前で、「近頃あなたへの非難の声がとても多い」「(戦争に介入する前に)事前に大統領に許可を?」「不法に入国した」「自分が国の代表だと?」「私ならもっと慎重に行動する」などと「責められる」場面があります。

これらに対するスーパーマンの反論は、「僕は戦争を止めた」「ただ正しいことをしたんだ」「命が奪われているんだ!」といったこと。それらは間違いなく目の前の人を救おうとする「善行」そのもののはずなのですが、その善行すら(たとえ対応に問題があったとしても)評価されにくい時代に、スーパーマンは生きているのです。」
本作は、そんなスーパーマンが「成長」する物語でもあります。本作の監督を手掛けたジェームズ・ガンの、その意志が分かるコメントを、『ゴジラ -1.0』の山崎貴監督との対談動画から引用しておきましょう。

重要なポイントは、彼の心の弱さに焦点を当てたことだと思います。彼は常に自分の見られ方に苦悩している人物なんです。両親によって地球に送り込まれた特別な存在であると、少しエゴにとらわれています。しかし物語が進むにつれて彼の気持ちは変わり始め、自分自身を見つめ直すようになります。自分が信じたことへの向き合い方を学んでいきます。

スーパーマンが苦悩する理由は、自分がどう見られているかをひどく気にしているからで、その原因には自身のエゴもある……。やはり、今回のスーパーマンは「人間くさい」悩みを持つ人物であり、その心の弱さが垣間見えるからこそ、好きになれる人も多いでしょう。
スーパーマン
(c) &TM DC(c)2025 WBEI
それでいて、スーパーマンが「人命救助」をするという、絶対的なヒーロー活動かつ「善行」をする場面もあり、そのほかの場面でも彼が「本当に良い人」であることが伝わります。

だからこそ、観客はスーパーマンがここまで非難されるのは間違っていると確信できるでしょう。そして、現実でロシアによるウクライナへの侵攻、イスラエルによるガザ地区侵攻の問題があるからこそ、ひどい状況下でも「目の前の人を助ける」ことを最優先にするスーパーマンを「信じたい」気持ちが強固になると思うのです。

3:「はぐれもの」を愛する監督が「優しいヒーロー映画」へたどり着いた

ガン監督は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』3部作や『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』などで、「はぐれものたちが奮闘する」様を描いてきました。
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(字幕版)
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(字幕版)
ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(字幕版)
ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(字幕版)
「初めはヒーローとは言えないけれど、徐々にヒーローになっていく」はぐれものたちに愛情を注いできたガン監督が、今回は『スーパーマン』という究極のヒーローを描くということそのものに感慨深さがあるのです。

しかも、「傷ついた人たちに寄り添う優しさ」というガン監督に通底する作家性が、今回は人間くさいスーパーマン像のみならず、現実の世界に届く「希望」へとつながっています。それが分かる言葉を、前述した対談動画から引用しましょう。

私が当初から作りたかったのは、善良で優しい心を持った人物を主人公にした物語でした。なぜなら、私たちが住む世界は決していいとは言えません。意地悪な人たちがトップに上りつめて、一方的に話を進めています。"優しさ”というものが最も反逆的でパンクロックだと言われる世界なんです。だから私が考えるスーパーマンとは、とても優しくて、思いやりのある男です。スーパーマンには強さより優しさが大切なんです

「私たちが住む世界は決していいとは言えない」の象徴は、前述した、善行をしているはずのスーパーマンが、世間から非難される様なのでしょう。

しかし、そんな世界にあっても、「優しさで世界を救えるのか?」という問いかけをすることこそが本作の主題であり、ガン監督の優しい作家性がそこに行き着いたことにも、感動があるのです。

またガン監督は、新たな『スーパーマン』を手掛けるにあたって、2023年に「父を亡くしてから約3年になります。父は私の親友でした。子どもの頃は私のことを理解してくれませんでしたが、漫画と映画への愛を支えてくれました。父がいなければ、今こうしてこの映画を作ることもできなかったでしょう」と語っています。
これまでのガン監督は「毒親といえる父親像」を描く一方で、「血のつながりに限らない家族」の尊さも伝えていました。今回は、スーパーマンと、その育ての父であるジョナサン・ケント(日本語吹き替えを担当するのは、かつてスーパーマン役を演じたささきいさお)が交わす言葉も重要であり、そこにはガン監督自身の父との関係が少なからず「投影」されているのかもしれません。
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「移民」のスーパーマンの物語だった
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