ヒナタカの雑食系映画論 第173回

映画『F1®/エフワン』を見る前に知ってほしい5つのこと。『トップガン マーヴェリック』との共通点と違いは

映画『F1®/エフワン』を「映画館で見るべき」な内容であることを筆頭に、事前に知ってほしい5つのことをまとめました。同監督とスタッフが手掛けた『トップガン マーヴェリック』との共通点だけでなく、明確に異なるポイントもあるのです。

エフワン
映画『F1®/エフワン』 2025年6月27日公開 配給:ワーナー・ブラザース映画 (C)2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
映画『F1®/エフワン』が6月27日より公開中。その触れ込みの1つは「地上版『トップガン』」です。

何より、日本でも大ヒットした『トップガン マーヴェリック』のジョセフ・コシンスキーが監督を務めたほか、その製作チームが集結しており、後述する通り、同作との共通点が(あるいは異なるところも)見つけられる作品だったのです。

予備知識をほぼ必要としない内容ではありますが、それでも事前に知ってほしい情報をまとめておきましょう。

1:上映時間は2時間半越え&でもとにかく劇場で見て!

注意点としては、上映時間が155分とそれなりに長尺であること。131分の『トップガンマーヴェリック』に比べても20分以上も長いですし、事前のトイレはほぼ必須です。

その一方で、長尺であることに身構えなくてよいとも思います。何しろ、後述する物語は、シンプルかつ万人向けのエンタメ性がある内容ですし、何よりド迫力の映像を「浴びる」ぜいたくな体験には、時間を忘れるほど没入できるはずです。
実在のモータースポーツである「F1®」を題材としているのは言うまでもなく、今作ではAppleのエンジニアたちがiPhoneのカメラを流用して制作した、専用の車載カメラが用いられています。そのおかげもあって、もはやレーサー本人の視点で時速300kmのレースに参加している感覚を得られるでしょう。

さらには、世界各国のサーキットでロケを行ったからこその「スケール感」、音を耳だけでなく全身で受ける「音響」、さらにはレースの疾走感にマッチした「音楽」と、それにシンクロするエッジの効いた「編集」など、「映画館」という、作品に没入できる環境だからこそ感じられる「加点要素」が大きいのです。
エフワン
(C)2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
「2025年最高レベルの超高速“体感”エンターテイメント!」という文言に、まったく誇張はありません。細かいことは抜きにして、「とにかく劇場で見て!」と改めてお願いしたくなります。

2:主人公が「ブラピらしい」「ちょっとイヤなやつ」…だがそれがいい!

本作の目玉は、やはりブラッド・ピットの主演作であること。彼が演じるのは「世界を震わせた伝説のレーサー」であり、あらすじは彼が現役復帰を果たして、最下位に低迷するチームを救おうとするシンプルなものです。

その上で、自信過剰でもある新人とはウマが合わず、チームメイトのはずなのに対立してしまいます。主人公が時代遅れだと周りから言われる(または自覚している)ことや、若い世代と反目し合ってしまうことが、分かりやすく『トップガン マーヴェリック』と共通している、というわけです。

ただし、決定的に異なるのは、そちらでトム・クルーズが演じる主人公は生真面目で「善性」を大いに感じるのに対し、この『F1®/エフワン』の主人公は良くいえば軽妙洒脱、悪くいえばやや不遜、もっといえば「ちょっとイヤなやつ」でもあることでしょう。
エフワン
(C)2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
主人公・ソニーはすっかりエフワンという表舞台から退いていて、客観的には「落ちこぼれの負け犬」と揶揄(やゆ)されてもおかしくない立場です。

しかし、ほぼ全編でひょうひょうした佇まい、物怖じせず常識破りな言動をしているおかげもあって、悲壮感や緊張感はほとんど感じられません。好みは分かれるかもしれませんが、「これはこれでブラッド・ピット主演作としては存分にアリ」と思えるバランスにもなっているのです。

例えば、ブラッド・ピットは『テルマ&ルイーズ』では何でもペラペラとしゃべってしまうどうしようもない男、『セブン』では猪突猛進な危うさがある刑事、『ファイト・クラブ』では今で言う「マッチョイズム」を体現したような役柄に扮(ふん)していました。ブラッド・ピットにとって、大きなくくりでの「ちょっとイヤなやつ」は、得意とするキャラクターなわけです。
エフワン
(C)2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
しかも、今回は久しぶりに現役に復帰した「老兵」ともいえる役柄が、ブラッド・ピット本人が年を重ねていたことともリンクしており、ある意味では集大成的なキャラクターです。

しかも、そのちょっとイヤなやつのはずの主人公が、物語後半のとある大きな反省を経て成長することも含めて、しっかり魅力的に見えてくるのです。ブラッド・ピットが大スターである理由を、再確認できる作品になっています。

ちなみに、ブラッド・ピット本人がモータースポーツの大ファンでもあり、ロードレース世界選手権であるMotoGPのドキュメンタリー映画『ヒッティング・ジ・エイペックス』ではナレーションと共同プロデューサーを務めたこともあります。

しかも、ジョセフ・コシンスキー監督は、ブラッド・ピットとトム・クルーズが共演する映画を脚本の読み合わせまで進めていたものの、予算の都合で企画が頓挫(とんざ)してしまったこともあったのだとか。同企画はその後、ジェームズ・マンゴールド監督、およびマット・デイモン&クリスチャン・ベール主演の映画『フォードvsフェラーリ』として完成したそうです。

そんなコシンスキー監督とブラッド・ピットにとって、レース映画の「決定版」のような今作を作り上げたというのは、きっと感無量だったことでしょう。
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女性のテクニカル・ディレクターの存在も重要だった
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