
結論から申し上げれば、青春恋愛映画の新たな傑作と断言できる、素晴らしい作品でした。若者に届いてほしいと心から思える理由と共に、事前に知ってほしい作品の特徴を3つに分けて記していきましょう。
1:「便利な能力で解決しない」物語
この『か「」く「」し「」ご「」と「』の特徴の1つは、高校生たちが「少しだけ人の気持ちが見えてしまう」チカラを持っていること。劇中ではさまざまな気持ちが「記号」で表現されています。例えば主人公・京には、「驚いた時にはビックリマーク」「疑問に思った時にはハテナマーク」などが見えていて、「気持ちが“見え見え”であること分かりやすさ」がコメディーにもなっているのです。

これは「人の気持ちの一端を知るだけではかえって悩んでしまう」という、コミュニケーションにおける本質をついた物語ともいえます。
例えば、現実にあるSNSにしたって、短い文章、写真、動画から、分かりやすくその人の主張が見えることもあるけれど、その「本心」は隠されていたりはするもの。それを持って「本心を知りたくなること」も世の常でしょう

つまりは、劇中の少しだけ人の気持ちが見えてしまうチカラとは、完全なファンタジーというわけではないし、実は特別なものでもない、誰でも少なからず持っているものだとも解釈できるのです。
2:「こういう人いる」と思える個性的なキャラクター。あだ名の由来は?
本作の大きな魅力は、若手キャストたちの好演および、それぞれが演じる5人のキャラクターの個性が豊かなこと。それぞれが、あだ名だけでなく名字で呼ばれたりもするので、軽く頭に入れておいた方が混乱せずに見られるでしょう。公式Webサイトにも掲載されている、それぞれの言葉も記しておきます。大塚京 (京)役 奥平大兼
僕なんかは 、ただのクラスメイトで良かった。好きでも嫌いでもないそんな男子の一人でいられれば
三木直子(ミッキー)役 出口夏希
ヒーローになりたいけど、本当の私はダメダメだ。そもそも、「なりたい」って言ってる時点で、自分はヒーローなんかじゃない
高崎博文(ヅカ)役 佐野晶哉(A ぇ!group)
頭ん中でさ、例えばどんなに悪いこととか考えてても、別に俺は…それがその人の本性だとは思わない
黒田文(パラ)役 菊池日菜子
人生なんてさ、やりたいことだけやっててもきっと時間が足りないんだよ。やりたくないことやってる時間なんてないさ
宮里望愛 (エル)役 早瀬憩
調子に乗っているとか、勘違いしているとか思われたらどうしよう。自分なんかがって思ってしまう
京は自ら平凡を望む、ややネガティブな思考の持ち主。ミッキーはヒロインよりも(戦隊ものの)ヒーローに憧れる勝気な女の子。ヅカはストレートな物言いをするとってもイイやつ。パラは変わり者でリアリスト。エルは自分に自信がなく引っ込み思案。
と、やや極端なキャラクター分けに見えるかもしれませんが、それぞれの悩みやパーソナリティーを知ると、「自分もこういうところあるかもな」「実際にこういう人いる」などと、やはり自分や誰かに投影しつつ、感情移入ができることでしょう。
そして、主人公の京が(この時点では宮里さんと呼ばれている)エルの不登校を気にしている最中、ミッキーのとある不可解な言動をきっかけに、京の親友のヅカ、ミッキーの親友のパラの心も大きく動き始めることになります。「誰が誰を好きなのか」「この人はこの人をどう思っているのか」という、ある種のミステリー要素込みのラブストーリーとしてキュンキュンしつつ、それぞれの切実な思いに苦しくなったりもするでしょう。
ちなみに、それぞれのあだ名はミッキーが(ミッキー本人はクラスメイトに付けられた)つけたもので、例えば「パラ」は「パッパラパー」の略で、「エル」は「目が大きくて笑った顔がセサミストリートに出てきそうだから」という、本名とは全く関係がないものも。
そのために、原作小説でミッキーは「友達に平気でそんなあだ名をつけるなんてクレイジー」と評されたりもしますが、パラ本人は「キャラ故に許される行動というものがあるからこのあだ名は便利」と思っていたりもします。
そして、主人公・京だけはなぜかあだ名がつかず、「京くん」と呼ばれ続けます。その理由や、彼の心が揺れ動く場面については、ぜひ映画本編で確かめてみてください。