ヒナタカの雑食系映画論 第170回

映画『か「」く「」し「」ご「」と「』を見る前に知りたい3つのこと。原作と監督の相性が最高である理由

『か「」く「」し「」ご「」と「』がとても素晴らしい映画でした。「便利な能力で解決しない」物語の魅力や、監督と原作の相性が最高だった理由、タイトルの意味のヒントなどを解説しましょう。(※画像出典:(C)2025 『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会)

かくしごと
『か「」く「」し「」ご「」と「』5月30 日(金) 全国公開 配給:松竹 (C)2025 『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会
5月30日より映画『か「」く「」し「」ご「」と「』が公開中。原作は『君の膵臓をたべたい』(双葉社)などで知られる作家・住野よるの同名小説です。

結論から申し上げれば、青春恋愛映画の新たな傑作と断言できる、素晴らしい作品でした。若者に届いてほしいと心から思える理由と共に、事前に知ってほしい作品の特徴を3つに分けて記していきましょう。
 

1:「便利な能力で解決しない」物語

この『か「」く「」し「」ご「」と「』の特徴の1つは、高校生たちが「少しだけ人の気持ちが見えてしまう」チカラを持っていること。

劇中ではさまざまな気持ちが「記号」で表現されています。例えば主人公・京には、「驚いた時にはビックリマーク」「疑問に思った時にはハテナマーク」などが見えていて、「気持ちが“見え見え”であること分かりやすさ」がコメディーにもなっているのです。
かくしごと
(C)2025 『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会
しかしながら、このチカラはSF物語のスーパーパワーのように、何かを解決することはありません。客観的には便利な能力を持っているはずなのに、主人公たちは誰かの気持ちを知ったことで、むしろその人の気持ちをどのように解釈すればいいか、どう接すればいいかが分からなくなってしまったり、自分に自信がなくなっていったりしてしまうのです。

これは「人の気持ちの一端を知るだけではかえって悩んでしまう」という、コミュニケーションにおける本質をついた物語ともいえます。

例えば、現実にあるSNSにしたって、短い文章、写真、動画から、分かりやすくその人の主張が見えることもあるけれど、その「本心」は隠されていたりはするもの。それを持って「本心を知りたくなること」も世の常でしょう
かくしごと
(C)2025 『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会
そして、主人公の京は、内気な性格の女の子・宮里さん(後のあだ名はエル)が学校に来なくなったことを、「自分のせいかもしれない」と気にしています。自分が言ったささいなこと……いや、それが「ささいなことではなかったかもしれない」可能性も含めて悩むというのも、若者に限らずコミュニケーションでよくあることでしょう。

つまりは、劇中の少しだけ人の気持ちが見えてしまうチカラとは、完全なファンタジーというわけではないし、実は特別なものでもない、誰でも少なからず持っているものだとも解釈できるのです。

2:「こういう人いる」と思える個性的なキャラクター。あだ名の由来は?

本作の大きな魅力は、若手キャストたちの好演および、それぞれが演じる5人のキャラクターの個性が豊かなこと。それぞれが、あだ名だけでなく名字で呼ばれたりもするので、軽く頭に入れておいた方が混乱せずに見られるでしょう。公式Webサイトにも掲載されている、それぞれの言葉も記しておきます。

大塚京 (京)役 奥平大兼
僕なんかは 、ただのクラスメイトで良かった。好きでも嫌いでもないそんな男子の一人でいられれば

三木直子(ミッキー)役 出口夏希
ヒーローになりたいけど、本当の私はダメダメだ。そもそも、「なりたい」って言ってる時点で、自分はヒーローなんかじゃない

高崎博文(ヅカ)役 佐野晶哉(A ぇ!group)
頭ん中でさ、例えばどんなに悪いこととか考えてても、別に俺は…それがその人の本性だとは思わない

黒田文(パラ)役 菊池日菜子
人生なんてさ、やりたいことだけやっててもきっと時間が足りないんだよ。やりたくないことやってる時間なんてないさ

宮里望愛 (エル)役 早瀬憩
調子に乗っているとか、勘違いしているとか思われたらどうしよう。自分なんかがって思ってしまう


京は自ら平凡を望む、ややネガティブな思考の持ち主。ミッキーはヒロインよりも(戦隊ものの)ヒーローに憧れる勝気な女の子。ヅカはストレートな物言いをするとってもイイやつ。パラは変わり者でリアリスト。エルは自分に自信がなく引っ込み思案。

と、やや極端なキャラクター分けに見えるかもしれませんが、それぞれの悩みやパーソナリティーを知ると、「自分もこういうところあるかもな」「実際にこういう人いる」などと、やはり自分や誰かに投影しつつ、感情移入ができることでしょう。
 
そして、主人公の京が(この時点では宮里さんと呼ばれている)エルの不登校を気にしている最中、ミッキーのとある不可解な言動をきっかけに、京の親友のヅカ、ミッキーの親友のパラの心も大きく動き始めることになります。「誰が誰を好きなのか」「この人はこの人をどう思っているのか」という、ある種のミステリー要素込みのラブストーリーとしてキュンキュンしつつ、それぞれの切実な思いに苦しくなったりもするでしょう。

ちなみに、それぞれのあだ名はミッキーが(ミッキー本人はクラスメイトに付けられた)つけたもので、例えば「パラ」は「パッパラパー」の略で、「エル」は「目が大きくて笑った顔がセサミストリートに出てきそうだから」という、本名とは全く関係がないものも。
 

そのために、原作小説でミッキーは「友達に平気でそんなあだ名をつけるなんてクレイジー」と評されたりもしますが、パラ本人は「キャラ故に許される行動というものがあるからこのあだ名は便利」と思っていたりもします。

そして、主人公・京だけはなぜかあだ名がつかず、「京くん」と呼ばれ続けます。その理由や、彼の心が揺れ動く場面については、ぜひ映画本編で確かめてみてください。
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監督との「相性」が最高の理由。映画ならではの「再構成」も
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